【民法】 特定と弁済の提供・その1
旧司法試験・新司法試験が近いので、択一対策的な話題を1つ。
択一試験でよく問われる問題として、特定の有無の問題や、弁済の提供の有無の問題がある。
そして、これは初学者のみならず、ある程度勉強の進んだ方でも混乱されることが多い。
「これは、分離・準備しただけで通知してないけど……あ、でも、取立債務だし……」
というような混乱に陥ったことがある受験生は少なくないはずである。
だが、この特定と弁済の提供は、実は、一旦体系的に概念を整理できれば、比較的簡単に解けるのである。
■定義
まず定義から述べよう。
特定とは、 種類債権において給付目的物を具体的に確定することを言う(奥田昌道『債権総論〔増補版〕』42頁)。
弁済の提供 (広義)とは、債務者のなす具体的給付行為を言う(潮見佳男『債権総論〔第3版〕Ⅱ』187頁)。
■混同されやすい両者
そして、定義からも分かるように、特定と弁済の提供は現実的行為態様や要件が重なる部分があるので混同されやすい。
例えば、持参債務において債務者が種類物の中から特定の物を選定して、債権者の住所に持参し、現実に提供するという行為は「特定」 であると同時に493条の「現実の提供」でもある。
しかし、両者は全く別物であり、区別せねばならない。
端的に言えば、特定(401条2項) は債務者を給付危険から解放するものであり、弁済の提供 (492条・493条)は債務者を履行遅滞責任から解放するものである(弁済の提供の防御的効力)。
但し、厄介なことに特定は534条2項によって、対価危険の移転時期の基準ともなっている。
つまり、特定をすると、債務者は401条2項によって給付危険から解放されると同時に、 534条2項によって対価危険からも解放されるのである。しかし、あくまで特定の効果は給付危険からの解放である。
なお、ここに給付危険とは、 給付目的物が滅失した時にその物の引渡債務が消滅しないという危険を言い、対価危険とは、 双務契約における一方の債権について給付不能が生じたときの他方債権の存否に関する危険を言う(北川善太郎『債権各論』175頁参照)。
つまり、危険負担の「危険」が対価危険である。
つづく。
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