【民法】 二重譲渡と561条
【問題】
Aは自己所有の不動産を4月1日にXに譲渡した(第1譲渡)。
その後、Aは登記が自己のもとに依然として存在することを奇貨として同一不動産を4月8日にYに譲渡し、登記も移転した
(第2譲渡)。Yは第1譲渡について善意であった。
この場合のXはAに対して追奪担保責任(561条) を追及できるのか?という質問を受けた。
つまり、Yが登記を備えたことによって、Aが所有していた不動産は遡及的に他人物となり、その結果、 XはAに対し他人物売買を理由とする損害賠償請求ができるのではないか?という質問である。
結論から言えば、できない。
何故ならば、本件不動産は他人物ではなく、561条の要件を充足しないからである。
換言すれば、Yが登記を備えたとしても遡及的にA・X間の売買の目的物が他人物売買になる訳ではないからである。
だいたい、何故、A・X間の売買の目的物が遡及的に他人物になるのか?(百歩譲って遡及するとしても、A・Y間の売買時に所有権がAからY、 もしくはXからYに移転したと考えれば十分なはずである)
条文に根拠が無い以上、 判例がその考え方を採用しているか、または、学説で少なくとも有力に主張されていることが必要であるが、 そのような考え方を判例は採用していないし、学説でも有力に主張されてはいない。
むしろ、判例によれば、登記の対抗力は遡及しないとされている。
従って、遡及しない以上、他人物売買にもならないはずである。
よって、追奪担保責任を原因とする損害賠償請求権も行使できない。
ところが。
予備校は、これを可能としているようなのだ(某
「ス○ンダード100」も同旨)。同じ内容を述べているサイトもある(こことかここ)
。
また、第2譲受人が登記を得た時点で、遡及するとしているブログもある。
……ひょっとしたら、私が判例や学説を知らないだけで、実際には追奪担保責任を肯定したものがあるのかもしれない。
そう思って、TKCで検索をかけたが、そんな判例は存在しない。
結局、最初に述べたように、追奪担保責任に基づく損害賠償請求権を行使することはできない、という結論で良いと思う。
しかし、何故、行使できる、という結論が広まったのか。謎である。
※尚、この書き込みは、 遡及的に訂正される可能性もある(笑)。悪しからず。
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コメント
質問なのですが、二重譲渡がなされて第一譲受人が登記を備えた場合はどうでしょうか。
本来、第一譲渡時に物権変動は生じているので、第一譲受人が登記を備えた後、第二譲受人に対抗できるようになるのは「第一譲渡時に物権変動は生じていた」ということなのではないのでしょうか。
投稿: | 2008年4月22日 (火) 01:51
コメント、ありがとうございます。
ご質問の内容は、「不動産の二重譲渡が為されたが、
第1譲受人が登記を備えた場合、第1譲受人が主張
できる物権変動の内容はどのようなものか?」
というものでしょうか?
もしそうであれば、仰るように、第1譲渡時に物権
変動が生じていたということを登記経由時から主張
できるようになる、というのが一般的な考え方だと
思います。
もし、私が、ご質問内容を誤解しているようでしたら
どうぞ、その旨、お申し付け下さいm(__)m。
投稿: shoya | 2008年4月22日 (火) 23:05
第一譲受人が登記を備えると、第二譲受人は第一譲受人に、「第一譲渡時に物権変動は生じていた」という事実を対抗されてしまう。にもかかわらず、第二譲受人が売主に、「第二譲渡時に所有権はまだ売主にあった」という事実を対抗されるのは変な感じがするのですが、これで正しいのでしょうか。つまり、第一譲受人から「第一譲渡時に物権変動があった」ということを対抗されるようになると、第二譲受人は売主に対して、「第一譲渡時に物権変動は生じていたのだから、第二譲渡は他人物売買だったのだ」と主張できないのかという質問です。
投稿: | 2008年4月23日 (水) 01:38
コメント、ありがとうございます。
上記のような問題設定の場合、第2譲受人は売主に対して
他人物売買を主張することはできないという考え方が現在
では有力ではないかと思います(直接的に関係する記述で
はないのですが、例えば、佐久間毅『民法の基礎1』〔有
斐閣、2003年〕128頁、同『民法の基礎2』〔有斐閣、200
6年〕122頁参照)。
A ―(1)→ X
|
(2)
↓
Y
確かに、仰るように、登記を具備した第1譲受人Xは、
第1譲渡を、第2譲受人Yに対抗できるようになります。
ですが、それはあくまで、登記具備後に第1譲渡を対抗で
きるというレベルに留まる、という見解が現在では有力だ
と思われます。
つまり、第1譲受人の登記が遡及的にAY間の売買契約の
効力に影響を及ぼすとは考えられていません。
したがいまして、AY間で現実に売買が為された段階では、
所有権は一応Aのもとにあった以上、他人物売買と評価す
ることは困難ではないかと思います。
また、事情にもよると思うのですが、Yが確定的に所有権
を取得できなくなるのは、Yに登記懈怠という「原因」が
あるだけであり、Aはあくまで自分の所有物を売却してい
るという評価も可能だと思います。
投稿: shoya | 2008年4月23日 (水) 08:21
上記コメント、最後のあたりの言葉遣いがおかしい
ですね。
(誤)Yに登記懈怠という「原因」が
あるだけであり
(正)Yに登記懈怠という「原因」が
あるからであり
謹んで、訂正いたしますm(__)m。
投稿: shoya | 2008年4月23日 (水) 08:25
解説ありがとうございました。公示を伴わない物権変動によってYが害されるのを防ぐために177条が存在すると思っていたので、Yを保護するための規定で売主Aが保護されるのは不当なのではないかと考えていました。
投稿: | 2008年4月23日 (水) 19:47
投稿は遅いと思いましたが、、
結論を反対に記憶していたのでコメントさせていただきます。すみません。。
登記の遡及効は聞いたことがありませんが、
別構成によって、設問の場合561条の適用があると思われます。
1.必要性
確かに561条は560条の「他人の権利」の売買の場合について規定しているので、本件のように売主自信の権利を目的としている場合には適用されないとも思えます。
しかし、561条の趣旨は、買主の売主に対する期待を保護し、有償契約における等価的均衡を維持することにあります。
とすれば、売主が他人の権利を売買の目的としながら給付ができず、買主が第三者から権利を追奪される場合のみならず、売主が自らの権利を目的としながら第三者に権利を譲渡し買主が権利の追奪を受ける場合も、買主の期待を害したことについて売主に責任を認める必要があります。
2.他人物売買との共通
思うに、履行期後にその目的たる権利を売主が他人に帰属させた時点で、売主の債務は他人の権利を再度取得して買主に移転するものとなり、それ以後の当該売買契約における債権債務関係は他人物売買の場合と何ら異ならないものとなります。
とすれば、当該契約は、560条の場合と同視でき、561条における「前条の場合」にあたると解します。(私見です)
→本件においては、AがYに譲渡・移転登記をした時点でAX間が他人物売買類似の関係となると解します。
3.不能は後発的不能を含む
そして、561条における「移転することができない」こと、すなわち「不能」は、他人物売買のような契約締結時の「不能」のみならず、前述のような履行期後の「不能」の場合をも含むと解します。
思うに、これを含まないとし561条責任を否定すると、買主は履行不能による債務不履行(415条後段)の損害賠償のみを請求しうることとなりますが、
契約締結時の不能の場合で売主に履行不能につき帰責性がある場合は履行利益(415条後段)に加えて信頼利益(561条)の賠償が認められるのに、
履行期後の不能の場合で売主に履行不能につき帰責性がある場合には履行利益の賠償しか認められず、不均衡となります。
よって561条は後発的不能も含むと解します。(結論同旨の判例があります。大判大10・11・22など)
→本件においてAは一度Xに譲渡していますが、その後に登記をYに移転し自らXへの債務を履行不能にしているので、これによって「移転することができな」くなり、Xは契約解除およびAに対し561条(および415後)に基づく損害賠償責任を負うと解します。
*.補足
2より3が大きいです
賠償については、売主は第二譲渡によってより利益を受けている蓋然性があり、他方で買主は予期せず一方的に追奪を受ける側なので、履行利益に加えて信頼利益の賠償を受けることは妥当と思われます。
またXが登記を備えなかったことにつき帰責性があるという反論がありそうですが、仮に帰責性があるとしてもそれはおそらくYに対しての94Ⅱの帰責性と思われ、Aに対して責めを負ういわれはあまりないと思われます。
深夜投稿につき場にそぐわなければ削除していただいてかまいません苦
失礼いたしました
投稿: k | 2009年4月27日 (月) 04:55
Kさん、詳細なコメントありがとうございます。
また、ご返信が遅れまして申し訳ございません。
まず、Kさんが述べられた構成についてですが、理論的に
あり得る構成だと思います。
また、恥ずかしながら、大判大正10年11月22日民録27輯1978頁は
寡聞にして存じ上げませんでした。
ご指摘、ありがとうございました。
※ ちなみに、判決はこのように述べています(句読点は引用者)。
「民法第五百六十一条ニ所謂売主カ其売却シタル権利ヲ取得シテ
之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルトハ、第三者カ売主ニ権利ヲ
移転スルコトヲ肯セサルカ為メ売主カ之ヲ取得スルコトヲ得サルニ
因リ之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルノ義ニシテ、第三者カ
一旦其権利ヲ売主ニ売渡スヘキコトヲ約シタルニ拘ラス、
之ヲ他ニ移転シタルカ為メニ売主カ之ヲ取得シテ買主ニ
移転スルコト能ハサル場合ヲ包含ス。」。
「何トナレハ、第三者カ其権利ヲ他ニ移転シ売主ヲシテ之ヲ
取得スルコト能ハサルニ至ラシムルハ、売主ニ対シ之ヲ
移転スルコトヲ肯セサルモノト同一ニ論ス可ケレハナリ」。
試験という観点から見ても、ここまでしっかりとご自身の
見解を答案で展開されるのであれば(そしてこの問題が
メインの論点であれば)、素晴らしいと思います。
法律学の醍醐味は、Kさんのように、説得的にご自分の
ご見解を展開してくという点にありますよね(^_^)。
つづく
投稿: shoya | 2009年5月 5日 (火) 09:54
つづき
さて、僭越ながらKさんのご見解に対する若干の疑問を
述べさせていただきますと、下記のとおりでございます。
■561条を適用(or類推)する必要性に乏しいのではないか
Kさんは、履行利益に加えて信頼利益の賠償を実現するために
561条を適用する必要性が高いと述べられます。
しかし、恐らく、現在では履行利益と信頼利益の賠償を同時に
実現することは矛盾であるという考え方が一般的ではないかと
思われます。
拙稿: 【民法】 履行利益と信頼利益について
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/12/post_567e.html
この問題は、第2回新司法試験にも出題され、ヒアリングなどに
よれば同時請求は矛盾であるという答えが一応の正解とされて
いたようです。
ですから、履行利益及び信頼利益賠償の実現をもって
正当化理由とするのは難しいかもしれません。
むしろ、Kさんの構成であれば、561条の適用により売主が無過失
であっても解除が認められるという点に意味があるのではないかと
思われます。
しかし、売主が無過失であるにもかかわらず561条による解除を
認めなければならない(二重譲渡)事例がどれだけあるのか、という
疑念があります。
また、そのような場合の標準的な処理を561条の規律に委ねて
良いのかという点にも疑問があります。
もちろん、契約で修正は可能です。
ですから現実的な問題は少ないかもしれません。
ですが、私法の一般法である民法の解釈のあり方として、
売主無過失の場合の二重譲渡事例では561条が適用されて
買主が契約から開放されるという結論を支持できるのか
どうか、やや違和感がございます。
■少なくとも類推ではないか
既にKさんご自身が指摘されているにもかかわらず、揚げ
足とりのような指摘をして恐縮ですが、561条は「前条の
場合において」という文言を用いています。
そして、前条では「他人の権利を売買の目的としたときは」
と書かれています。
拙稿の設例の場合、AからXへの第1譲渡時に、Aは
当該不動産を所有しておりました。
したがいまして、Kさんの構成をとられる場合であっても
条文の文言にそのまま合致するわけではございませんので
類推にした方が無難かもしれないな、と思いました。
そして、仮に私のように類推という構成にするのであれば
答案では類推の理由を書いた方が良いのではないかと思い
ました。
以上、長々と失礼いたしました。
ご寛恕のほどをお願い申し上げます。
投稿: shoya | 2009年5月 5日 (火) 09:56
http://ikisou.sersai.com/TpQjh2L/
3Pウマすぎーー!!!!!あっもち二人とも女な^^
俺完全にマグロ状態だったのに、5万ずつもらえたしwwwww
てか、二人で俺のティンコ奪い合ってる時は興奮絶頂すぎたよーヽ(´ー`)ノ
投稿: ふぁーーーっくwwwwww | 2009年5月10日 (日) 15:47
この大正時代の判例も、「準用」という表現を用いていたように思いますので、たしかに、準用や類推という表現を使うほうがいいかもしれません。時系列でいえば、たしかに、締結時点では「他人の」という要件を満たさないように思うので・・・
投稿: あ | 2012年5月14日 (月) 19:50