【民法】 特定と弁済の提供・その3
以下の記述は、潮見佳男先生の『債権総論 I 〔第2版〕』(信山社、2003年)に大幅に拠っている。
■はじめに
実は、弁済の提供の効力には2つの場面がある。
即ち、攻撃的効力の場面と防御的効力の場面である。
(1)攻撃的効力
相手方の同時履行の抗弁権を奪い、相手方を履行遅滞に陥れるために、自己の債務についてできるだけのことをするという場面。
(2)防御的効力
債務不履行責任を負わないために、債権者の協力なしに債務者としてできるだけのことをするという場面(492条、493条はこの効力について規定している)。
こちらが弁済の提供の基本的効力である。
■攻撃的効力について
そして、攻撃的効力の場面における「弁済の提供」は、あまり厳格に考えるべきではない。
何故なら、この場面においては、被提供者は自己の債務の履行を怠っている者である以上、「弁済の提供」 を厳格に解さねばならないとすると、不誠実な債務者に口実を与えることになってしまうからである。
特に……
給付を「受領することを」 拒絶する意思が明確な場合(債権者の受領拒絶が明確な場合。 大判大10年11月9日民録27輯1907頁。尚、この判例の読み方については争いがあり得る。谷口知平=五十嵐清編『新版注釈民法(13) 債権(4)補訂版』〔有斐閣、平成18年〕829頁以下〔山下末人〕も参照)、
自己の「債務を履行しない意思を」 明確にした場合(債権者の債務不履行意思が明確な場合。最判昭和41年3月22日民集20巻3号468頁)
……には、攻撃的効力としての弁済の提供は不要であるということに注意。
■防御的効力について
493条に言う「弁済の提供」とは、「債務の本旨」に従った現実の提供(もしくは口頭の提供)を言う。
よって、防御的効力発生の為の要件は、①「債務の本旨」に従っていること、②現実の提供(もしくは口頭の提供)をすること、である。
そして、弁済の提供の基本的効力である防御的効力の趣旨が遅滞責任からの解放という点にある以上、 防御的効力発生手段としての弁済の提供は、遅滞責任が生じ得るような状態になって初めて問題になる。
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