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2006年5月22日 (月)

【法律論の基礎】 類推適用

ここでも述べたが、今日は類推適用の話。


繰り返しになるが、大事なことなので定義から再言する。

「類推適用とは、ある事態Aに対して規定Xが用意されているときに、事態Aそのものではない――したがって、直接には規定Xの要件に該当しない――が本質的な点では事態Aと同一であると考えられる事態Bについて、規定Xを適用して事態Aと同じように扱うこと」を言う(佐久間毅『民法の基礎1』〔有斐閣、2003年〕130頁)。


要するに、


【大前提】 事態A ――→ 規定X ――→ 効果P

【小前提】 事態A ≒ 事態B

【結 論】 事態B ――→ 規定X ――→ 効果P


ということである


つまり、大前提が条文の直接適用(本来適用)の場面であり、小前提の部分が類推適用の論証の部分である。

従って、類推適用の論証で、最も重要な部分であり、かつ、試験などで評価されるポイントはこの小前提の部分である


そして、この小前提の部分、即ち、類推適用の論証で求められていることは、

1. 事態Aの本質は何なのか?

2. 何故、事態Aと事態Bは本質の点で類似していると言えるのか?

という2つの事項を説得的に展開することである。


ところが。

答案を見ていると、1.の事項については良く書けているのに、1.の部分の論証で力尽きてしまったのか、2.の事項について触れられていない答案、または触れているが不充分な答案が多い。

しかし、2.の事項は1.の事項以上に重要な部分である。
特に、権利外観法理のように、1.の事項が比較的容易に論証できる場合は、差は2.でつく


では、2.の事項はどうやって論証すれば良いのか?と問われそうであるが、これは1.の内容に即して書くものなので、一般的な書き方を説明することはできない。

ただ、まともな問題作成者が作成した問題であれば、2.の論証に使えそうな事実が問題文中に示してあるはずである。


簡単な例で恐縮だが、具体的に説明してみよう。

例えば、権利外観法理(94条2項類推適用)における事態の本質は、

(ア)虚偽の外観の存在
(イ)虚偽の外観作出についての真の権利者の帰責性(承認
(ウ)外観が虚偽であることについての信頼

である。


このうち、(イ)について言うと、有力説によれば、2.に使えそうな事実として長期間の放置がある(但し、一般論としては、「放置」と「承認」は異なるものであるとする見解が多数だと思われる)。

例えば、不実の登記が長期間放置されていたとしよう。


この場合

「登記は不動産取引の基礎となる重要な制度であるから、虚偽の是正が強く求められる。また、時間的余裕があれば登記の是正は容易なはずである。

換言すれば、長期間放置している場合は、登記簿上の虚偽の記載を排除するなどして、適法な状態を回復することが充分可能であったにも拘わらず、敢えて不実の登記を公示し続けているという点で帰責性が高い。

従って、帰責性の点で○条の本来適用場合と同視ことができるので、類推適用できる」

というような論証になる。


但し、上記のように、放置をもって「承認」の要件充足を肯定して良いか、については争いがある。

安永正昭「民法における信頼保護の制度と法律構成について(二)」神戸法学雑誌28巻2号147頁以下など参照。

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