【法律論の基礎】 類推適用
ここでも述べたが、今日は類推適用の話。
繰り返しになるが、大事なことなので定義から再言する。
「類推適用とは、ある事態Aに対して規定Xが用意されているときに、事態Aそのものではない――したがって、直接には規定Xの要件に該当しない――が本質的な点では事態Aと同一であると考えられる事態Bについて、規定Xを適用して事態Aと同じように扱うこと」を言う(佐久間毅『民法の基礎1』〔有斐閣、2003年〕130頁)。
要するに、
【大前提】 事態A ――→ 規定X ――→ 効果P
【小前提】 事態A ≒ 事態B
【結 論】 事態B ――→ 規定X ――→ 効果P
ということである
つまり、大前提が条文の直接適用(本来適用)の場面であり、小前提の部分が類推適用の論証の部分である。
従って、類推適用の論証で、最も重要な部分であり、かつ、試験などで評価されるポイントはこの小前提の部分である。
そして、この小前提の部分、即ち、類推適用の論証で求められていることは、
1. 事態Aの本質は何なのか?
2. 何故、事態Aと事態Bは本質の点で類似していると言えるのか?
という2つの事項を説得的に展開することである。
ところが。
答案を見ていると、1.の事項については良く書けているのに、1.の部分の論証で力尽きてしまったのか、2.の事項について触れられていない答案、または触れているが不充分な答案が多い。
しかし、2.の事項は1.の事項以上に重要な部分である。
特に、権利外観法理のように、1.の事項が比較的容易に論証できる場合は、差は2.でつく。
では、2.の事項はどうやって論証すれば良いのか?と問われそうであるが、これは1.の内容に即して書くものなので、一般的な書き方を説明することはできない。
ただ、まともな問題作成者が作成した問題であれば、2.の論証に使えそうな事実が問題文中に示してあるはずである。
簡単な例で恐縮だが、具体的に説明してみよう。
例えば、権利外観法理(94条2項類推適用)における事態の本質は、
(ア)虚偽の外観の存在
(イ)虚偽の外観作出についての真の権利者の帰責性(承認)
(ウ)外観が虚偽であることについての信頼
である。
このうち、(イ)について言うと、有力説によれば、2.に使えそうな事実として長期間の放置がある(但し、一般論としては、「放置」と「承認」は異なるものであるとする見解が多数だと思われる)。
例えば、不実の登記が長期間放置されていたとしよう。
この場合
「登記は不動産取引の基礎となる重要な制度であるから、虚偽の是正が強く求められる。また、時間的余裕があれば登記の是正は容易なはずである。
換言すれば、長期間放置している場合は、登記簿上の虚偽の記載を排除するなどして、適法な状態を回復することが充分可能であったにも拘わらず、敢えて不実の登記を公示し続けているという点で帰責性が高い。
従って、帰責性の点で○条の本来適用場合と同視ことができるので、類推適用できる」
というような論証になる。
但し、上記のように、放置をもって「承認」の要件充足を肯定して良いか、については争いがある。
安永正昭「民法における信頼保護の制度と法律構成について(二)」神戸法学雑誌28巻2号147頁以下など参照。
| 固定リンク
「学問・資格」カテゴリの記事
- 【民法】 権利者からの取得が明らかな場合の即時取得(2010.02.20)
- 【民訴・民裁】 処分証書に関する覚書(2009.12.03)
- 【余談】 修習で役立つ書籍・刑事編(2009.11.30)
- 【余談】 修習に役立つ書籍・民事編(2009.11.28)
- 【憲法】 処分に関する違憲審査基準について・その2(2009.02.18)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント