【民法】 集合将来債権譲渡の特定性・その3
結論から言うと、多くの学生が理解していない点とは、
「判例が問題にしているのは、 債権譲渡契約の特定性の問題であって、債務者の識別可能性の問題ではない」
という点である。
G ―― T
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S
つまり、判例が問題にしているのは、譲渡人Gと譲受人Tの間で締結される債権譲渡契約―― 準物権行為たる債権譲渡行為の原因となる契約――についての特定性の問題なのである(余談だが、法律用語としては、「譲渡人」は「じょうとにん」と読み、「譲受人」は「ゆずりうけにん」 と読むのが通常である)。
正確に言うと、次のようになる。
債権譲渡行為自体は、一般に準物権行為と考えられており、基本的に物権行為と同様に考えて良い。
そして、物権では直接的・絶対的・排他的効力を及ぼす範囲を明確にする必要性があり、そのため、目的物の特定性が必要であると解されている。
この理は、準物権行為たる債権譲渡行為にも妥当する。
従って、債権譲渡行為についても目的債権の特定性が必要である。
ところで、債権譲渡行為の原因となる法律行為(債権行為)は、通常、契約で為される。
言うまでもなく、契約も法律行為であるから、法律行為の有効要件として要求される特定性が必要である。
従って、「法律行為の有効要件としての特定性要件と、物権変動、債権譲渡における直接帰属の意味における特定性要件は一致する」 (後掲の藤井論文より抜粋)。
つまり、前述した判例が述べているのは、 この特定性要件についての話なのである。
換言すれば、債務者Sに対する対抗要件(権利行使要件と呼ぶ方が正確)や、第三者に対する対抗要件については、前述した判例は、 何も述べていないのである。
そして、そもそも、債権譲渡制度は、債務者を 「インフォメーション・センター」(by 前田達明先生)とすることによって、対抗要件制度を機能させ、 同時にその公示を図る制度である。
とすれば、対抗要件レベルでは、譲渡人・ 譲受人間レベルの特定性とは別に、債務者がインフォメーション・ センターとして機能する程度の特定性が必要になる。
前述の判例は、この対抗要件レベルの特定性については何も述べていないのである。
この点を正確に理解して欲しい。
興味があれば、是非、藤井徳展先生の「将来債権の包括的譲渡の有効性 ──ドイツにおける状況を中心に── (1) (2・完)」『民商法雑誌』127巻1号22~58頁、127巻2号190~220頁、特に22頁以降を御覧頂きたい。
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