【民法】 類型論の基礎
旧司法試験の択一も終わり、新司法試験が近づいているので、論文関係の話題を。
……と言う訳で、今日の話題は不当利得に関する類型論の概説。
予備校では、依然として我妻先生の公平一元論を主として教えているようであるが、現在の多数説――通説と言っても良いかもしれない―― は類型論を採用している。
また、司法試験やロースクールの入試問題などでも類型論を意識した問題が出題されることは少なくない。
では、この類型論とは何か?
結論から言えば、類型論とは「法律上の原因」 を類型化し、類型の特色に応じた適切な解釈論を展開しようとする見解である。
潮見先生の 『基本講義 債権各論Ⅰ』(新世社、2005年) 267頁の言葉を引用すれば、
「類型論は、不当利得が問題となる局面を、利得を生じさせた原因 (=法律上の原因)に着目することで類型化し、侵害利得・給付利得・求償利得へと区分し、処理」 する見解
である(但し、類型の仕方には様々なものがあり、侵害利得、 給付利得という2つの類型が存在することにほぼ争いは無いが、それ以外の類型としてどのようなものが存在するか、 という点については争いがある)。
ちなみに、各類型の特徴を簡単に説明すると、以下のとおりである。
■侵害利得
ある者が他人の権利を侵害し、そこから不当に利得を取得した場合の類型を言う。
端的に言えば、不当利得が「物権的請求権の代替的制度」として機能する場合である。
例えば、Gの絵画をSが盗み出し、売却してしまった場合のGからSへの不当利得返還請求である。
■給付利得
一定の法律上の原因の存在を前提としてある者から別の者へと給付がなされたが、実はその法律上の原因が存在していなかった場合の類型である。
端的に言えば、「契約の巻き戻し」が問題になる場合である。
例えば、G・S間で売買契約が締結され、GからSへと絵画が売却されたが、その絵画が贋作であった(錯誤無効) の場合の不当利得返還請求である。
■支出利得
受益者に対する直接の給付以外の方法で、損失者Xの支出により、受益者Yが利益を受けた場合の類型を言う(山本敬三先生の定義)。
例えば、債務者Sの債務をTが弁済した場合の、TからSへの不当利得返還請求である。
そして、このような類型論が主張されたのは簡単に言うと、以下の理由に基づく。
確かに、公平一元論が指摘するように、不当利得制度は「公平」を実現するための制度である。
しかし、公平一元論の根拠たる「公平」は多義的な概念であるため、それだけでは事案の解決や結論の正当化が困難である。
それどころか、「法律上の原因」には多種多様なものが存在する以上、不当利得制度を統一的に説明するのは困難である。
むしろ、各法制度における財貨の帰属・移転の正当化事由、即ち「法律上の原因」の有無を、各法制度の趣旨に遡って考察すべきである。
そのような考察によって初めて、各法制度の趣旨が全うされ、真の「公平」が実現されるのではないか。
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コメント
初めまして、じょーと申します。
勉強していて分からないところがあってネットで調べていたらshoyaさんのブログに辿り着きました。
丁寧な説明で、すごく分かりやすくて、感銘をうけました。
ところで、ご教授願いたいところがございます。
AがBに有名絵画を売却し、引き渡し、BがAに代金を支払った2ヶ月後、実はその絵画はAがCから鑑定依頼を受けて、占有していたにすぎなかった。
Bには絵画がA所有のものであると信じるにつき不注意があった。
ここで、
即時取得ができないため、BがAとの契約を解除した場合、BがAに対して代金の返還請求(+2か月分の利息)をする事になる。
一方Aが、絵画の引き渡しと2か月分の使用利益をBに請求することになる。
予備校の答案には上記のように書いていたのですが、
鑑定を依頼されただけであり、利用権限のないであろうAが何故絵画の使用利益をBに請求できるのでしょうか?
鑑定依頼に基づく絵画の占有権限がAにあった以上、絵画をBが占有することでBに利得が、Aに損害が生じるため、絵画の使用利益分の不当利得返還請求ができるのでしょうか?
ちなみに僕は、最近類型論を知ったので、まだ使いこなせてなく、今はまだ公平一元説で考えているのですが、近いうちに類型論を勉強しようかと思ってます。
教えていただけると幸いです。
よろしくお願いします。
投稿: | 2009年11月14日 (土) 02:07
じょーさん,コメントありがとうございます。
ご返事が遅れまして失礼いたしました。
結論から申し上げれば,どちらの考え方もあり得ると
思います。
まず,予備校の解説は不当利得返還請求権の特則たる
545条を形式的に適用すれば導くことが可能です。
一方,じょーさんの考え方(絵画の使用利益はCに帰属
すべきという考え方)は703条の解釈論として導くこと
が可能です。
実はこの事案は,解除が行われているので見えにくく
なっていますが,不当利得をどのような視点で分析
するかという根本的な問題と関わっています。
いわゆる契約清算的構成と侵害利得的構成の対立です。
(詳細は,例えば,藤原正則先生の『不当利得法』
〔信山社,2002年〕317頁以下をご参照ください)
この問題は3人以上の者が関わる不当利得の事案で
特に問題になるのですが,理論的には2人しか関わら
ない不当利得の事案でも問題になります。
応用的な話である上に,私の筆力不足で分かりにくい
かもしれませんが,以下,ご説明いたします。
じょーさんが既に的確にご指摘されているように,
本件でその帰属が問題になるのは,絵画の使用利益です
(代金の利息がBに帰属すべきであることについては
争いはないと思います)。
簡単に申し上げれば,契約清算的構成の論者は,
「実質的」な瑕疵が生じている契約当事者間で
不当利得の問題は解決されるべきだ,とします。
本件に即して申し上げれば,契約清算的構成の論者は,
AB間で使用利益の問題は解決されるべきだ,とします。
言い換えれば,契約が存在しないCB間で問題は解決
されるべきではない,とします。予備校はこの立場です。
この構成は,契約と無関係の第三者(本件のB)に,
契約の瑕疵――Aの権限濫用という瑕疵――に基づく
不利益を及ぼすべきではない,という考え方に立脚します。
他方,侵害利得的構成の論者は,CB間で問題は解決
されるべきだ,とします。
この構成は,絶対的に保障されるべき所有権を有して
いるのはCであり,使用利益とは所有権侵害に他ならない
以上,CB間で問題は解決されるべきだ,という考え方に
立脚します。
そして,侵害利得構成の場合,第三者の保護は即時取得
などで図られることになります。
上記の問題は,Aが破産していたり,無資力だったり
すると,更に切実な問題になります。
投稿: shoya | 2009年11月16日 (月) 09:00
御丁寧な解説ありがとうございます。
なるほど、AB間で処理する立場もBC間で処理する立場もあるんですね。
どちらか一方の思考方法がが正しく、他方は間違ってると思いこんでおりました。
正しいか間違ってるかではなく、
自分はどちらの立場の方が筋が通せるか、という目で見ることも大切だと思いました。
ところで、
≫この構成は,契約と無関係の第三者(本件のB)に,契約の瑕疵――Aの権限濫用という瑕疵――に基づく不利益を及ぼすべきではない,という考え方に立脚します。
という部分は、
確かに所有者Cは、自分が絵画の占有を認めてないBが、絵画を占有していたことで使用利益を請求したいということは分かるが、
そもそも、Bが絵画の使用利益を享受したのは、AC間の契約の瑕疵が原因であるところ、
その瑕疵による損害は、
Aと契約を締結したCが負うべきであり、
契約の瑕疵による損害を
直接Bに請求する事は
契約の瑕疵による損害をを
Bに転嫁する事となり
それは不当である。
といっても
Bが使用利益をわがものにできる
というのは、それはそれで不当
そこで
≫不当利得返還請求権の特則たる
545条を形式的に適用すれば導くことが可能です。
AB間の売買契約を解除したのだから、形式的にいって(形式的に545条を適用して)、買主Bが売主Aに売買目的物の使用利益を返す事は妥当。
(さらに、AはBに代金の利息分を返還せねばならないことを考えれば、Aに絵画の使用利益が帰属することは、――Aが不当な行為をしたことも考慮しても――BやCに帰属するより不当ではない。)
ということでしょうか?
≫上記の問題は,Aが破産していたり,無資力だったり
すると,更に切実な問題になります。
確かに、AB間で処理する考え方なら
Aが無資力でも相殺したらいいですしね。
あと、
解除後にいつも使用利益と利息が問題となるが、給付利得なら契約の巻き戻しなのだから
575条1項を(類推)適用したら、いいのではないかと思ってたのですが、
この考え方は間違っていますよね、
575条1項は売買契約成立後の話なのだから
売買契約を解除をした場合は、
解除後の使用利益(利息)については575でいいが、
売買契約の目的物(あるいは代金)を渡してから解除までの間の使用利益については
理由なく得た利得であり、不当利得として
返還請求される
という理解で正しいでしょうか。
重ねての質問申し訳ありません
長文失礼いたしました。
投稿: じょー | 2009年11月17日 (火) 00:34
じょーさん,コメントありがとうございます。
契約清算的構成のご理解については,概ねそのとおり
で宜しいかと思います。私の説明が誤解を生んでも
危険ですので,お時間があれば,正確を期すために
藤原先生の『不当利得法』ほ御覧になることをお薦め
いたします(^^;)。
また,575条1項類推適用説は間違いではありません。
学説でも広中先生や四宮先生といった大御所がこの
見解を支持されます。例えば,広中俊雄『債権各論
講義 第6版』(有斐閣,1994年)409頁以下を御覧
ください。
但し,類推適用説には批判が強いです。この点については
例えば,藤原先生の『不当利得法』の174頁や
磯村保先生の「契約の無効・取消の清算」『私法』
48号50頁を御覧ください。
以上,取り急ぎ,ご返信までに。
投稿: shoya | 2009年11月17日 (火) 09:46
ご教授ありがとうございました。
不当利得法について一度、しっかり勉強してみます。
勉強になりました
ありがとうございます。
投稿: じょー | 2009年11月17日 (火) 22:20
移動するのが面倒だけど、着いた後は寝てるだけでいいしチョロいよな^^
http://rakuraku.nnstarterpp.net/5faqpyd/
てか俺さーこのところ人気出まくりだし
いつも8 万請求だけど14 万に上げてみたの!!!
なのに前よりも引張りダコなんだがwwww 何?高級感?イミフwwww
投稿: 金額パネェwwwwwww | 2009年11月18日 (水) 16:23
風-俗にすら行く勇気も金もなくて結局32年間童-貞・・・だから
前に教えてもらったのがチョイ気になってたし、とりまヤってみたwww
http://pyupyu.momoringo.net/w0-8bj2/
えーこっちから何もアプローチしなくても楽勝でハメれたっす!ヽ(・∀・)ノ
お金も予想以上にいっぱい貰えるし会社も辞めてやりましたーよ(*´`ω´)/
あーー俺ってばなんで今までクソ真面目な人生送ってきたんだろ(T_T)
投稿: やっと卒業!!!!!!!!!!! | 2009年11月19日 (木) 11:11