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2006年5月21日 (日)

【会社法】 登記簿上の取締役について

以前も書いたが、登記簿上の取締役という概念がある。

今回は、その中でも退任登記未了型の取締役について。

 

まず、登記簿上の取締役について適用が問題となり得る条文は2つある。

即ち、会社法908条1項・2項と、商法9条1項・ 2項である。

どちらも2項が、いわゆる「不実の登記」についての規定である。

 

そして、登記簿上の取締役のうち、就任登記不実型については判例(最判昭和47年6月15日民集26巻5号984頁)があり、登記簿上の取締役に不実の登記について 「故意または過失がある」場合、当該取締役は旧商法14条(現・会社法908条2項) の類推適用により責任を負うとされている。

 

ところで。

 

退任登記未了型の場合は、就任登記不実型とは異なり、実は会社法908条1項の類推適用も問題になり得る(事実、東京地判昭和58年2月24日は908条1項を類推適用した)。

 

つまり、取締役退任という「登記すべき事項」(908条1項。 商業登記法54条4項も参照)を登記していないのであるから、同条が適用されるのではないか、という問題である。

 

実際、時々、勉強の良くできる初学者から質問を受ける。

では、いずれを適用すべきであろうか。

 

条文上は、どちらも適用し得る。

ただ、要件が異なる。

908条1項は故意・過失の有無を問わないのに対し、2項は故意・ 過失を要求するのである。

 

 

結論から言えば、私は908条2項を適用すべき、 と考える。

理由は次のとおりである。

 

そもそも、908条1項は、判例・ 伝統的通説によれば商業登記懈怠に対する制裁規定であり、かつ、登記者に悪意擬制効を付与する規定である。

 

換言すれば、商業登記懈怠者に対するアメとムチを定めることによって、 商業登記へのインセンティブを与えることを目的とした規定であり、 商業登記という商業政策の基礎を確立するための政策的規定と考えられる。

 

この政策的要請があるため、908条1項では故意・過失が問われていない。 商業登記は商人であれば最低限すべき事項であると考えられているのである。

 

従って、908条1項が予定しているのは、そのような強い政策的要請が働く場面である。

 

他方、908条2項は、 権利外観法理の一種である。

つまり、客観的に不実の登記が為された場合に、帰責性を有する者に対して制裁を与える規定である。

 

言い換えれば、客観的に不実の登記が為されたとしても、帰責性が無ければ責任を問わない規定である。

 

そして、退任登記未了型の取締役には、様々なものがある

即ち、積極的に不実の登記に関与した取締役も存在すれば、 退任登記をするように要請しているにも拘わらず会社が登記をしてくれないという取締役も存在する。

 

このような多様な利益状態が認められる場合に、一律に強い政策的要請を及ぼすのは妥当ではあるまい。

つまり、個別具体的な利益状態に応じた解釈が必要であろう。

とすれば、故意・過失という要件によって決め細やかな解釈が可能な908条2項の適用が妥当なのではないか。

 

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