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2006年5月26日 (金)

【民法】 公信問題と対抗問題・その2 〔動産篇・3〕

今回も前回に引き続き動産の公信問題と対抗問題について、一言。

 

 

 

■前回の結論

繰り返しになるが、前回の結論を再言すると次のとおりである。

 

 

即ち、「判例・伝統的通説に従うと、 不動産物権変動においては177条直接適用と94条2項類推適用を同時に肯定することはできないが、 動産物権変動においては178条の適用と192条の適用を同時に肯定することができる」

 

 

 

■具体例

具体的に説明すると次のとおりである。

 

例えば、AからXへある目的物の第1譲渡が為され、AからYへ同一目的物の第2譲渡が為されたとする。

 

A ―→ X


 

そして、

 

(1)目的物が不動産であった場合

XとYの優劣は177条で決せられる。これで終了である

94条2項を類推適用することはできない。

 

 

(2)目的物が動産であった場合

XとYの優劣は、「まず」178条で決せられる。

もし、Xが先に占有改定による「引渡し」(178条) を受けていた場合、Xが優先する。

 

しかし、動産の場合は、これで終了ではない

 

Xの占有改定後にYが現実の引渡しを受けて192条の要件を充足する場合は、Yが当該動産の所有権を即時取得し、 Yが優先するのである。

 

 

■理由

これは、何故か?

 

 

結論から言えば、動産の占有には公信力が認められているからである。

 

 

即ち、民法が178条で対抗要件主義を採用すると同時に、 192条で即時取得という制度を採用している以上、動産物権変動においては公示の原則の1種である対抗要件制度が、 公信の原則の1種である即時取得で補完されていると考えられるからであるちなみに、このような立法方針が採られた理由は、 占有が観念化しているという点にある)。

 

 

誤解を恐れずに言えば、動産物権変動で178条+192条という処理が許されるのは、 民法が公信の原則を肯定しているからである。

 

他方、判例・伝統的通説によれば、不動産物権変動では公信の原則が認められていない(公信の原則はローマ法以来の例外的な法理であるため、明文が無ければ否定される)。

 

したがって、不動産については、動産の場合ような補完体制は採用されていないものと考えられる。

 

この結果、177条と94条2項類推適用は分断される

 

つまり、94条2項類推適用には192条とほぼ同様の機能を営むものであるところ、 そのような94条2項類推適用と177条を同時に肯定することは、この民法の「分断」 方針に反することになってしまうのである。

 

そのため、不動産物権変動においては、177条直接適用と94条類推適用を同時に肯定することはできないのである。

 

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