【民法】 公信問題と対抗問題・その2 〔動産篇・3〕
今回も前回に引き続き、 動産の公信問題と対抗問題について、一言。
■前回の結論
繰り返しになるが、前回の結論を再言すると次のとおりである。
即ち、「判例・伝統的通説に従うと、 不動産物権変動においては177条直接適用と94条2項類推適用を同時に肯定することはできないが、 動産物権変動においては178条の適用と192条の適用を同時に肯定することができる」。
■具体例
具体的に説明すると次のとおりである。
例えば、AからXへある目的物の第1譲渡が為され、AからYへ同一目的物の第2譲渡が為されたとする。
A ―→ X
|
↓
Y
そして、
(1)目的物が不動産であった場合
XとYの優劣は177条で決せられる。これで終了である。
94条2項を類推適用することはできない。
(2)目的物が動産であった場合
XとYの優劣は、「まず」178条で決せられる。
もし、Xが先に占有改定による「引渡し」(178条) を受けていた場合、Xが優先する。
しかし、動産の場合は、これで終了ではない。
Xの占有改定後にYが現実の引渡しを受けて192条の要件を充足する場合は、Yが当該動産の所有権を即時取得し、 Yが優先するのである。
■理由
これは、何故か?
結論から言えば、動産の占有には公信力が認められているからである。
即ち、民法が178条で対抗要件主義を採用すると同時に、 192条で即時取得という制度を採用している以上、動産物権変動においては公示の原則の1種である対抗要件制度が、 公信の原則の1種である即時取得で補完されていると考えられるからである(ちなみに、このような立法方針が採られた理由は、 占有が観念化しているという点にある)。
誤解を恐れずに言えば、動産物権変動で178条+192条という処理が許されるのは、 民法が公信の原則を肯定しているからである。
他方、判例・伝統的通説によれば、不動産物権変動では公信の原則が認められていない(公信の原則はローマ法以来の例外的な法理であるため、明文が無ければ否定される)。
したがって、不動産については、動産の場合ような補完体制は採用されていないものと考えられる。
この結果、177条と94条2項類推適用は分断される。
つまり、94条2項類推適用には192条とほぼ同様の機能を営むものであるところ、 そのような94条2項類推適用と177条を同時に肯定することは、この民法の「分断」 方針に反することになってしまうのである。
そのため、不動産物権変動においては、177条直接適用と94条類推適用を同時に肯定することはできないのである。
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