【民法】 公信問題と対抗問題・その2 〔動産篇・2〕
今日も、前回に引き続き、動産の公信問題と対抗問題について、一言。
■説明
結論から言えば、判例・伝統的通説に従う限り、先程の問題においてはYが絵画についてXに優先することになる。
その論理は以下のとおりである。
まず、判例・伝統的通説によれば、解除によって復帰的物権変動が生じるので(ちなみに、この点については解除の法的性質とも絡んで激しい争いがある)、A→X、 A→Yの物権変動が生じることになる。
したがって、二重譲渡類似の関係が発生し、X・Yは「両立し得ない権利を相争う関係」にあるので(この伝統的通説の表現が妥当かはひとまず措く)、 その優劣関係は178条によって決せられることになる。
本問では、XがYより先に占有改定を受けているので、Xが「占有」を取得しており、対抗要件を備えたことになる。
よって、Xが優先する。
ここまでは、 不動産物権変動と同じである。
しかし、ここからが異なる。
即ち、動産物権変動においては、192条によって公信の原則が肯定されている。
ここに、公信の原則とは、「物権の存在を推測させる表象(登記・登録・占有等)を信頼した者は、たといその表象が実質的の権利を伴わない空虚なものであった場合にも、 なおその信頼を保護されねばならないという原則」を言う(我妻栄〔有泉亨補訂〕『新訂 物権法(民法講義2)』〔岩波書店、1983年〕 43頁)。
従って、AがXに占有改定による引渡しを済ませ無権利者となった後に、Aが当該絵画をYに引き渡した場合、192条の適用がある (大判昭和19年2月8日新聞4898号2頁など参照)。
そして、本問では192条の要件を充足すると考えられる。
従って、Yは、当該絵画の所有権を取得する。
ここまで、読んで理解できたであろうか?
即ち、判例・伝統的通説に従うと、不動産物権変動においては177条直接適用と94条2項類推適用を同時に肯定することはできないが、 動産物権変動においては178条の適用と192条の適用を同時に肯定することができるのである。
では、これは何故なのか?
物権変動に関するとても良い問題なので、お時間があるときに考えて頂ければ幸いである。
つづく。
【民法】 公信問題と対抗問題・その2 〔動産篇・3〕
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コメント
Xが「解除と同時に占有改定を受けている」のなら、解除後のAY間の売買は他人物売買であって対抗問題は生じないのではないでしょうか。
投稿: 学生 | 2008年3月20日 (木) 21:27
学生さん、コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、設例がおかしいですね(^_^;)。修正しておきます。
ご指摘、ありがとうございました。
投稿: shoya | 2008年3月20日 (木) 23:03