【民法】 即時取得(善意取得)の要件・その2〔要件〕
今回も、前回の続きで、 「実体法の要件と要件事実論の整理がうまくできないという現象」と即時取得の関係について、一言。
■伝統的通説が提示する要件
伝統的通説、例えば、我妻栄/ 有泉亨補訂『新訂 物権法(民法講義2)』(岩波書店、1983年)214頁以下は、即時取得の要件を次のように説明する。
1.動産であること (215頁)
2.取引によって占有を承継すること (216頁)
3. 動産を処分する権限のない者から占有を承継したこと(218頁)
4.平穏・公然・善意・無過失であること (220頁)
5.相手方の占有を信頼して、 自らもまた占有を取得すること(222頁)
5の要件を別個独立に要求すべきか否かについては争いがあり得るが、 1から4の要件については、 これらが伝統的通説による192条の実体法の要件であるということについて争いはほぼあるまい。
■192条の要件事実とは?
では、これらの要件は、 全て現実に訴訟に現れる独立の要件なのか?
答えは、否、である。
結論から言えば、現実に訴訟に現れる192条の積極的要件は、2の要件が意味する「取引行為であること」と 「占有を承継したこと」だけである(1の「動産であること」という要件はほとんどの場合、明らかな事実であり、 当事者間に争いが無い)。
そして、消極要件として、 即時取得の効果を否定する者から、4の要件の裏の命題が意味する「取得者の悪意・有過失」が主張される。
つまり、3の要件は現実的には訴訟で主張されることはほとんど無いのである。
■学説による説明
この点について我妻先生は、次のように述べられる。
「前主の無権限を即時取得の要件として挙げることには、積極的な意味は無い。したがって即時取得を主張する側で前主の無権限を主張し、 立証するという問題は起きない。完全な処分権限がある場合には、第192条の適用はないというほどのことであり、後の(2) の場合を除外することに意味があるにすぎない」(前掲・ 我妻=有泉218頁。尚、「(2)の場合」とは、相手方が制限能力者や無権代理人であった場合や、 錯誤があった場合などのことである)。
また、東大の内田先生も、 次のように述べられる。
「前主が無権限者であるということは、訴訟で即時取得を主張する当事者が主張・ 立証の責任を負うという意味での要件ではないことに注意する必要がある(訴訟の相手方が売主に所有権がなかったことを主張・立証したときに、 買主側からの即時取得が主張される)」 (内田貴 『民法1 第2版補訂版 総則・物権総論』〔東京大学出版会、2000年〕458頁以下。尚、最新版は第3版である)。
結局、実体法上の要件として挙げられているものの中には、 実体法の解釈論としての整合性を保つために主張されているものが存在するということである。
前回の投稿で、基本的には「実体法の解釈論が主、 要件事実論が従」と述べたが、要件事実論は解釈論の下僕ではないのである。
つまり、要件事実論も解釈論と同じく「理論」であって、そこでは立証の難易を踏まえたうえで、いかにして当事者の公平を実現し、 訴訟経済を達成するか、が日々研究されているのである。
若干、とりとめの無い話になってしまった。
申し訳無い。
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