【法律学の基礎】 答案の書き方
※ 最終改訂:2009年04月19日
今日は、解釈論の話ではなく、答案の書き方について一言。
むしろ、法律学の話よりも、こういう実践的な話の方が皆さんにとっては有益なのかもしれませんが(笑)。
まずは、"ちゃんとした"先生方が答案作成上の注意点などを述べられていますので、それらを2つ、ご紹介したいと思います。
■松岡久和先生の記事
1つ目は、このサイトからもリンクを張らせて頂いている、 京大の松岡久和先生の記事です。
法律科目の答案作成上の注意点
http://www.matsuoka.law.kyoto-u.ac.jp/SemiMaterials/how2ans.htm
この記事は有名ですので、知っておられる方も多いと思います。
法律学の答案作成についての一般的な注意点を述べられており、その上で、普段、どのように勉強すべきか、 について丁寧に説明されています。
特に、概念を正確に理解すべき、 という指摘はとても重要だと思います。
初学者の方の議論を拝聴していて思うのですが、その科目やその分野があまり得意でない方――誤解を恐れずに言えば、 まだ法律の解釈論の実力を付けていない方――は、概念を正確に理解せぬまま、 議論を進めていることが少なくありません。
もちろん、議論をすることはとても重要ですし、その議論の中で、自分が概念を正確に理解できていないことに気付くということは、 素晴らしい経験知になると思います。
その意味で、そのような議論が無意味であるということは、絶対にありません。
むしろ、そのようにして得られた知識は、「ぼんやりとした」知識より、はるかに有益です。
しかし、「概念を正確に理解することは重要である」という知識は、かなり基本的なことですし、かつ、 法律学の解釈の基礎になるものなので、できれば、法律学の勉強の当初の段階から理解した方が良いのではないかと思います。
現に、第1回新司法試験の民事系の考査委員に対するヒアリングで、 ある先生は次のように述べられています。
「解答水準であるが, 問題としてはどの設問もおおむね基礎的な知識を論述の形式で解答すれば足りる部分と, それから事例に即してその場で考える力を試す部分とで構成されており,予想としては,前段の知識を問う部分は大体正しく書け, 後段の事例に即して,その場で考える部分で点差が付くのではないかと予想していたが,実際に採点してみると,事例に即してその場で考える力, 能力を示す答案は予想外に少なく,しかも,基礎知識の論述部分において誤っている答案が多かった。」 (太字は引用者)
■伊藤靖史先生の記事
2つ目は、同志社大学の伊藤靖史先生の記事です。
伊藤先生は、森本先生のお弟子さんです (ちなみに、松岡先生は前田達明先生のお弟子さんです)。
http://blog.livedoor.jp/assam_uva/archives/14840149.html
http://blog.livedoor.jp/assam_uva/archives/14840832.html
http://blog.livedoor.jp/assam_uva/archives/14910496.html
松岡先生の記事のような一般論ではありませんが、具体的な答案作成上の注意点について述べられています。
特に、コメント欄での先生方の議論も有益ですので、是非、ご覧ください。
■私見
最後に、私の個人的な注意点を幾つか述べさせて頂きたいと思います。
第1に、学生の方の答案を拝読していて思うのは、 論理性に欠ける答案が多い、ということです。
ここで言う「論理性」とは、潮見先生風に表現すれば(笑)、 「追試可能」ということでして、平たく言えば、「その答案を読む者が、 その答案の論理を答案作成者の解説無しに追っていけるかどうか」ということです。
旧司法試験を19回受験されて、予備校の講師をされた経験もあり、現在は東京の鳥飼総合法律事務所を経営されている鳥飼重和先生も次のように述べられています。
「法律論は論理を基礎に展開するので、 論理の筋が通っていなければ困ります。」(鳥飼重和「『稼げる』弁護士になる方法」 〔すばる舎、2009年〕58頁)。
例えば、私が答案を拝見していて、眉を顰めたり致しますと、「そこは……という意味です」とご本人から説明を頂くことがあります。
そして、その説明自体は筋が通っており、説得力に富むことがしばしばあります。
つまり、ご本人は当該問題について、よく理解されているのです。
ところが、答案の記述からはそれを読み取れないということがあります。
これは非常に勿体無いです。
ご本人に思考力があるにも関わらず、 書面審査である各種試験では実力が無いという評価を下されてしまうからです。
そして、この問題は接続詞を多用することで、ある程度――形式的に――改善可能です。接続詞は論理の流れを明確にするからです。
また、解答中に答案の文章を黙読して確認するという作業も地味なようで、なかなか効果的ではないかと思います。
第2に、問題文の特徴――事案の特徴―― に着目することが大事です。
”しっかりとした”問題であれば、記載されている事実には必ず意味があります。
むしろ、その事実の意味を読み解いて欲しいというメッセージが込められています。
したがいまして、その事実に着目してこそ高得点が取れるわけですし、逆に、 その事実を無視すれば高得点は望みにくいものになってしまいます。
答案構成をした段階で、問題文に現れている事実を”使っていない” のであれば、それは答案構成が誤った方向に進んでいる危険性が高いのではないか、と思います。
よく誤解されがちですが、新旧司法試験で問われているのは、
「あなたはこの事案をどう解決しますか?」
ということであって、
「あなたはこの事案に関する論点を知っていますか?」
ということではありません。
論点に関する知識を答案に記述することは必要条件ではありますが、十分条件ではありません。
第3に、問題提起をする際には必ず問題文の事実から書き始めて下さい。
実力のある方の答案を拝見していると、唐突に
「では、この行為は○○に当たるか。△条の『××』の意義が問題となる」
という問題提起をされていることがあります。
ですが、これもまた、勿体無いです。
通常、実体法の試験では、一行問題でも無い限り、必ず問題文に事案が書いてあるはずです。
そして、受験者は、その問題文の事情に即した解答をする必要があります。
そうであれば、全ての論点は、問題文に書いてある何らかの事情に起因しているはずです。
そして、その原因となった事情を答案に示してこそ、「私は問題文の事情に即した解答をしていますよ」 というメッセージを採点者に伝えることができます。
ですから、マニュアルのようで恐縮ですが、問題提起をする際には、
1.まず、問題文の事情を摘示し、
2.次に、論点の概要を摘示(いわゆる 「事案の問題提起」と「論点の問題提起」を併記すると丁寧です)
3.最後に、その論点を論じる必要性を摘示する(詳しくはこちらを参照してください)
という手順を採られた方が良いのではないかと思います。
第4に、規範を定立する際には必ず理由を付して下さい。
確かに、解答時間が足りない場合は、理由を書かずに規範を定立することは合理的な判断です。 途中答案になるよりはダメージが少ないですから。
ですが、そうでない場合は、理由を書いて下さい。
理由無を書かずに、「この問題については、判例は……と解している」と書くだけでは点数はあまり貰えないのではないかと思われます。
何故ならば、理由付けがあって、初めて解釈論と呼べるからです。
第5に、当てはめでは必ず評価を加えてください。
当てはめは、事実の引用と同義ではありません。
(1)事実を引用し、(2)評価を加え、(3)規範の射程が及ぶことを示して、初めて当てはめと呼べます。
第6に、ご自身が受験される試験がどのような実力を見定めようとする試験なのか認識してください。
例えば、司法試験を受験される方によくありがちな誤解ですが、司法試験は実務家登用試験であって、学者採用試験ではありません。
そして、司法試験で大切なことは、
(1)解答時間内に
(2)ある程度受容されている法的見解――つまり極端な少数説以外の見解―― を用いて
(3)その問題に対する妥当な答えを答案上に示す
ということです。
誤解を恐れずに申し上げれば、司法試験で問われている事項は、「判例・通説を用いて当該問題を解くことができますか?」 という点にあると言って良いと思います。
前述した鳥飼先生も次のように延べられています。
「問題文には採点者が必ず聞きたいことがあります。 それは法律家であれば当然分かること。」。
「『あなたの説は必要ない』が司法試験の原則です。」(以上につき前掲・鳥飼57頁)
勿論、少数説を採用しても、論理的な考え方が答案に示されていれば、 司法試験に合格することは十分可能です。
個人的にはそのような姿勢は大変好ましいと思います。
自分が是と考える見解に沿って説得的な処理方法を示す――法律学の醍醐味の1つはこの点にあると言えます。
ですが、司法試験において問われている事項は、少数説の理解でもなく、先端的な学説の知識でもありません。
司法試験で問われているものは、実務家の資格を与えるに値する知識と能力、即ち、この現実の社会を法的に動かす基礎的な素養を備えているか否かということです。
ここで言う「基礎的な素養」とは純粋な法的知識に限られません。
凡そ社会人であれば当然のことですが、「締切りを守る」(=制限時間内に解く)ということも、この「基礎的な能力」に含まれます (実際の法曹が締切りを本当に遵守しているかという問題はさておき(^_^;))。
孫子が仰っているように、「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」です。
受験される試験がどのような実力を測定しようとしている試験なのか、どうぞ見誤らないようにご注意ください。
■他の参考サイト
リーガル・
ライティング(Web法科塾)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~Jusl/JTWebHouka/JTHoukaRon.html
法律論文の書き方
http://blogs.dion.ne.jp/my66/
答案の書き方|試験・レポート情報|國學院大學 法学部
http://www2.kokugakuin.ac.jp/law/info/answer.html
答案・レポートの書き方
http://www001.upp.so-net.ne.jp/bbk/e/jirei.html
弁護士NOBIのぶろぐ 旧司法試験の論文の書き方について
http://blog.goo.ne.jp/deppa/e/9b20eda1a8bda135996d37a83617a28d
司法試験論文試験用答案の書き方
http://www.chiiku.com/barexam.htm
Tomorrow never knows | 答案の言葉遣い
http://skuld.fw.to/sb/log/eid407.html
■関連する拙稿
【余談】 法律学の勉強の仕方について、ほんの一言。
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/post_fa46.html
【法律学の基礎】 答案の問題提起と条文
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_a81b.html
【法律学の基礎】 民法の解釈方法
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_4c18.html
【民法】 信義則の使い方 ――当てはめの基礎
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/12/post_3d82.html
【法律学の基礎】 記述式(論文式)の答案の書き方についての覚書・その1
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_6f8e.html
【法律学の基礎】 記述式(論文式)の答案の書き方についての覚書・その2
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_7b5a.html
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