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2006年6月18日 (日)

【労働法】 お薦め基本書

【定番】
菅野和夫 『労働法 第七版補正版』(弘文堂、2006年

言わずと知れた東大名誉教授の菅野先生の基本書である。

質・量ともに最大級であり、もし、労働法を本格的に勉強するのであれば必携である

 

この本では労働法の全分野について詳細な記述が為されており、しかも、その記述は正確で信頼できる。

 

但し、「詳細」と言っても、他の分野の「詳細」と言われている基本書、例えば 民法の山本敬三先生の基本書ほど判例や学説について「詳細」な訳ではない。

あくまで、労働法の基本書類の中では最も詳細ということである。

 

そのため、分野や論点によっては理由付けなどの記述量が少なく、他の文献に当たる必要がある場合がある。

ただ、その場合でも、参考文献が記されていることが多いので、文献調査に手間がかかるということは少ないだろう。

 

何にせよ、労働法を勉強するのであれば買って損は無い本である

ちなみに、第1回の新司法試験は、この本をかなり意識した内容であった。


 

 

 

【隠れた名著】
大内伸哉『労働法実務講義 第2版』 (日本法令、2005年

余り有名ではないが、個人的に名著と思うのは、神戸大学の大内先生の『労働法実務講義』である(ちなみに、大内先生は菅野先生の弟子である)。

この本は、菅野先生の本より分厚く、かつ値段が高いので余り注目されていないのかもしれないが、良い本である。

 

具体的に言うと、記述がかなり丁寧で、かつ平易な言葉で書かれている

 

換言すれば、菅野先生の本では労働法の基礎知識を有する者、 もしくは大学の講義などで基礎知識を取得することが可能な状況にある者を前提とした記述が為されているが、この本ではそのような基礎知識を有していない者や講義を受けられない者にも対応できる記述が為されている

 

また、初学者が陥りやすい点や、基礎的な知識についてもちゃんと説明がされている(民法の佐久間先生の 『民法の基礎』に近い印象を受けた)。

 

ただ、裏を返すと、既に労働法を学んだことのある者にとっては、記述が「くどい」危険性がある。

 

また、菅野先生の本よりも頁数は多いものの、このような丁寧な記述が為されているため、 全体としてカバーする分野は菅野先生の本より狭い。

 

つまり、「辞書」的な用い方はできない(更に、細かい話だが、 フォントの大きさなどの点で印刷の仕方が若干雑である。字の大きさは大きくて見やすいが、 括弧内などの小さくすべき部分は小さくすべきだろう。これは先生の責任ではなく、出版社の責任だが)。

 

とは言え、もし、これからあなたが基本書だけで独学するのであれば、私はこの本を推薦する


 


【入門書】

『ベーシック労働法 第2版増補版』(有斐閣、2006年

最近の入門書としては、本書が比較的優れている。

 

「第3章 働き始める」、「第4章・働き方のルール」、「第5章・働くことの対価」などのように平易な言葉を用い、図表を駆使し、 同時に身近な出来事を素材にして労働法を説明しており、 法律の素養に乏しい初学者にも対応しようという意図が見られる

 

他方で、従来の判例や学説を的確に、かつコンパクトにまとめており、 本書を読めば労働法の基礎的だが重要な知識については取得できるだろう。

 

但し、全く法律学の素養が無い者が本書を読んで、「一読了解スラスラ分かる!」 ということは無いと思う

 

少なくとも教養程度の法律学(民法) の知識は必要だろう。

従って、その意味で、本書はおよそ法律学自体について初めて学ぶ者には向いていない。

また、同様に、労働法の知識が一定程度ある者にも本書は向いていない。

 

しかし、あなたが、多少は法律学の素養はあるが、労働法について全く初学者であり、かつ、 最初から大内先生の本のような浩瀚なものに手は出しにくい、とりあえず労働法のイメージを掴みたい、 というのであれば、本書はうってつけである。


 


 

【演習書】
土田道夫、和田肇、 豊川義明『ウォッチング労働法 法学教室Library』(有斐閣、 2005年


労働法の演習書には様々なものがあるが、最近出版されたもので、内容が充実しているものとしては本書がある。

 

そして、本書では「採用・採用内定・試用」、「賃金」、「労働時間」、「休暇,休業,休職」、「労働災害の補償」「人事」 などといった目次立てからも分かるように、現実に発生する様々な問題を採り上げ、それについて解説を加えるという構成を採っている。

 

但し、本書の解説は、採り上げられた問題についての解答・答案というよりは、文字どおりの「解説」である。

そのため、解答に際しては必ずしも必要の無い情報も記述されている。

 

換言すれば、採り上げられた問題に含まれている論点についてコンパクトな判例・学説整理などが為されているのである。

 

その意味で、実践的な演習――アウトプットを主目的とした演習――をしたいのであれば本書は向いていないだろう。

 

しかし、インプットを比較的大きな目的とした演習をしたいのであれば本書は適切だと思われる。

 

著者である土田先生は東大名誉教授の菅野先生のお弟子さんであって、その記述は信頼できるし、また、 弁護士である和田先生も著者に加わっているので、机上の空論ばかりが展開されるということも無い。

 

本書と同様の性格を有する書籍として長沼先生などが書かれた 『演習刑事訴訟法 法学教室Library』がある。


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