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2006年6月12日 (月)

【民法】 物権的請求権の相手方・その1

今日は、物権的請求権の相手方の話。
と言っても、最高裁判例の判旨を少しまとめるだけだが。


閑話休題。


物権的請求権の相手方に関する問題として、Xの土地に無権原で建てられた建物の実際の所有者(Zとする)と建物の登記名義人(Yとする)が異なる場合、土地所有者Xは、誰を名宛人として建物収去土地明渡請求をすべきか?という論点がある。


 ┌――┐
 |   | Y → Z
 |   |
――――――
  X


この問題については、実質的所有者責任説、対抗問題型登記名義人説、非対抗問題型登記名義人説などがあるが、最高裁は、平成6年2月8日判決民集48巻2号373頁で次のように述べた。


■原則
「土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである」


■未登記建物の所有者が未登記のまま、これを第三者に譲渡したところ、勝手に譲渡人名義の登記がされてしまった場
「未登記建物の所有者が未登記のままこれを第三者に譲渡した場合には、これにより確定的に所有権を失うことになるから、その後、その意思に基づかずに譲渡人名義に所有権取得の登記がされても、右譲渡人は、土地所有者による建物収去・土地明渡しの請求につき、建物の所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができる」


■建物登記の名義人が実体法上、建物を所有したことが無いにも拘わらず、登記だけがある場合
「建物の所有名義人が実際には建物を所有したことがなく、単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない場合も、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を負わない」



■自己の意思で建物登記を経由した場合

「他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である」

そして、この理由について、最高裁は幾つかの事項を挙げているが、理論的根拠としては、次のように述べた。


「けだし、建物は土地を離れては存立し得ず、建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから、土地所有者としては、地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有するのであって、土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点であたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく、建物所有者は、自らの意思に基づいて自己所有の登記を経由し、これを保有する以上、右土地所有者との関係においては、建物所有権の喪失を主張できないというべきであるからである」


そして、この理論的根拠のポイントは「あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく」という部分である。

端的に言えば、最高裁は、この理由付けの部分で「『対抗関係』類似の関係があるから、登記を有している建物の旧所有者Yは、自己の登記喪失をXに主張できない」と述べているのであるが、この論理は理解できるであろうか?


わざわざ「あたかも」と最高裁が述べていることからも分かるように、本件のような物権変動は本来の対抗問題ではない。
少なくとも、最高裁は本来の対抗問題ではないと考えている。


では、どこが、本来の対抗問題ではないのか?
そして、それにも拘わらず、どうして対抗問題と類似していると言えるのか?

つづく

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