【民法・手形法】 表見代理と権利外観法理・その3
前回の続きで、今回も、表見代理と権利外観法理について。
■序論
今日は早速、本題に入る。
Y
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A ―→ B ―→ C ―→ X
前回の投稿では、表見代理の「第三者」の意義について直接の相手方に限るという見解(限定説)を採りつつ、同時に権利外観法理を採用することは、理論的には可能ではないか、と述べた。
つまり、本人A、代理人B、相手方C、転得者Xという関係において、「第三者」は直接の相手方(C)に限られるが、Xは権利外観法理によって保護され得るのではないか、ということである。
では、この考え方は論理的に整合性を有するのか?
結論から言えば、整合性を有するのではないかと私は考える(たからこそ、長々とこんな文章を連ねている(笑))。
確かに、このような考え方には迂遠である、という批判が考えられる。
即ち、
「限定説 → Xの保護否定」、しかし「権利外観法理 → Xの保護肯定」
という構成をするよりも、端的に
「非限定説 → Xの保護肯定」
という構成をした方が構成としてスマートではないか、という批判である(事実、商法学説の多数説は非限定説である)。
しかし、私は、この批判は当を得ていないと考える。
何故ならば、第1に理論的には限定説こそが本筋であり、第2にその「本筋」からすれば、権利外観法理を用いることは正当化できるからである。
■限定説が妥当な理由
第1の理由について説明する。
そもそも、京大の佐久間先生がはっきりと指摘されているように、
「表見代理(権利外観法理)による信頼保護の場合、信頼の対象いかんによって、適用されるべき法理は異なってくる。そのため、この場合には、保護されるべき信頼の対象が何であるかを、よく見極める必要がある」
(佐久間毅「民法110条の『第三者』」民法判例百選1・67頁)
この理を本件にに当てはめてみると、転得者Xが有している信頼は、通常、代理人Bの代理権ではなく、むしろ本人Aが手形債務を負うということに向けられている。
そして、この命題はは一般化できるであろう。
つまり、転得者は、通常、代理人とされる者に代理権があるという点に信頼を向けている訳ではなく、本人が債務を負うという点に信頼を向けているのである。
とすれば、このような信頼しか有していない転得者に表見代理による保護を与える必要性は乏しい。
つまり、転得者を「第三者」に含める必要性は低いと考えられるのである。
■権利外観法理適用の正当化
第2の理由について説明する。
既に引用したように、権利外観法理を適用する際には、「保護されるべき信頼の対象が何であるかを、よく見極める必要がある」。
そして、これまた既に述べたように、転得者の信頼は本人が債務を負うという点に向けられている。
このような信頼を保護するために用いるべき法理は、権利外観法理、または民法94条2項類推であって、表見代理ではない。
換言すれば、
表見代理で問題とされる信頼は代理権の存在に対する信頼
であり、
権利外観法理で問題とされる信頼は本人の責任負担に対する信頼
であり、
民法94条2項で問題とされる信頼は前主に権利ありという信頼
なのである。
従って、表見代理と権利外観法理とで結論を統一しなければならない必要性は無いと考えられる。
■まとめ
結局、本稿で1番言いたかったことは、佐久間先生の指摘である(笑)。
即ち、再引用すると、
「表見代理(権利外観法理)による信頼保護の場合、信頼の対象いかんによって、適用されるべき法理は異なってくる。そのため、この場合には、保護されるべき信頼の対象が何であるかを、よく見極める必要がある」
と言うことである。
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