【民法】 混同 ――法定地上権と関連して・その3
今回も、混同と法定地上権について、一言。
そして、今回も前回の解説の続きである。
今回は条文の文言に即した説明をしていくので、もしお手元に六法があれば、是非、煩を厭わず条文の文言に当たって頂きたい。
■問題
抵当権設定時には土地所有者と建物所有者が異なっており、土地にだけ抵当権が設定されたが、 抵当権設定後に土地所有者が建物所有権を取得し、抵当権が実行された段階では同一所有者になっていたとする。
Q1.
この場合、判例・多数説は法定地上権の成立を否定する。
そして、その理由は、土地抵当の場合は約定利用権の目的たる土地が第三者の抵当権の目的となっているから、約定利用権は、 179条1項但書・520条但書に定める混同の例外として消滅しないという点に求められる。
では、この場合の「その物又は当該他の物権」とは何か? それが「第三者の権利の目的である」とはどういう意味か (179条1項但書)?
■説明
説明の便宜上、土地所有者=建物の新所有者をA、建物の旧所有者をB、土地抵当権者をXとする。
┌――┐
| | B → A
| |
――――――
A ←――抵当権者X
また、前回の解説で述べたように、本稿では約定利用権が(対抗要件を備えた)賃借権である場合にも、 179条1項但書を類推適用する立場を前提とする。
つまり、賃借権も「当該他の物権」に当たるとする立場を前提にする。
民法179条1項 【混同】
同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、
その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
結論から言えば、本問における 「その物又は当該他の物権」とは土地のことである。
これは分かりやすいだろう……と思った。
ところが。
どうも、本問における「その物又は当該他の物権」を約定利用権と考える方が少なくないようである。
つまり、抵当権設定当時、建物所有者はBであり、土地所有者はAであった以上、 AB間には何らかの約定利用権設定契約が締結されていたはずである(例えば、土地賃借契約)。
そして、本問では、Aが建物所有権を取得したことによって、本来消滅するはずのその「その物又は当該他の物権」 (=約定利用権)が、「第三者の権利の目的である」 という混同の例外に基づいて、消滅しないのではないか、と考える方が多いようなのである。
確かに、建物抵当の場合の「その物又は当該他の物権」は、建物の約定利用権(敷地利用権)である。
下図をご覧いただきたい。
つまり、建物抵当権者ZがC所有の建物に抵当権を設定した当時は、土地所有者がDであったが、その後、 Cが土地所有権を取得したという場合、CがDから受けていた敷地利用権は混同の例外として消滅しない。
この場合の論理は、Cの敷地利用権が従たる権利(87条2項類推)としてZの建物抵当権の目的となっている (=「第三者の権利の目的である」)ので、 混同の例外が認められない、というものである。
┌――┐ ←――抵当権者Z
| | C
| |
――――――
D → C
しかし、土地抵当の場合は、異なる。
何故ならば、建物利用者(下図のB)が設定を受けている敷地利用権は、土地抵当権の従たる権利ではないからである。
┌――┐
| | B → A
| |
――――――
A ←――抵当権者X
また、土地抵当の場合に、「その物又は当該他の物権」=敷地利用権と考えると、179条1項但書の説明ができなくなってしまう。
つまり、土地抵当の場合に「『その物又は当該他の物権』=敷地利用権」と考えると、敷地利用権が第三者の目的である必要があるが、 どう考えても、敷地利用権はXの目的ではない。
むしろ、敷地利用権があると土地抵当権は底地としての価値しか把握できないので、 土地抵当権にとっては敷地利用権は「邪魔物」である。
従って、土地抵当の場合の「その物又は当該他の物権」は、土地である。
そして、この土地は、第三者Xの抵当権の目的であるから、179条1項但書はうまく説明できる。
それでは、何故、この土地が、
第三者Xの目的物だと、敷地利用権は消滅しないのか?
消滅しない実質的理由は何か?
つづく。
【民法】 混同 ――法定地上権と関連して・その4
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