【民法】 即時取得(善意取得)の要件・その1〔導入〕
今日は、即時取得(善意取得)の要件について、 一言。
■要件事実論の役割はどこにある?
ロースクールが開校されたことによって、大学教育においても要件事実論が一般的な科目となった。
ところで、この要件事実論、色々と「インパクト」が強いようである。
要件事実論のインパクトが発生させる現象には、大きく分けて2つある。
1つ目は、 「要件事実論至上主義」 的な発想に陥ってしまうという現象である。
即ち、請求原因 → 抗弁 or 否認 → 再抗弁 or 否認 → ……といった流れをうまく説明するために、 実体法上の解釈を歪めてしまう現象である。
だが、これはおかしいだろう。
確かに、主張・立証の困難性の点で、およそ訴訟で用いることができないような解釈論は机上の空論に近く、 少なくとも現実的な解釈論としては妥当ではない。
その意味で、解釈論は、要件事実論も含めた実際の訴訟を念頭に置く必要がある。
これは重要な指摘である。
しかし、法律学においては、基本的には、実体法の解釈論が主、要件事実論が従であって、 要件事実論に合わせるために解釈論が修正されるということは無い。
何故ならば――正しい解釈が行なわれているならば――、その実体法の解釈こそが法律の内容であり、 立法府からのメッセージだからである。
また、そもそも、要件事実論は訴訟の場での思考整理、訴訟進行整理のために構築された理論であって、 解釈論を所与の前提とする理論である。
■要件事実論と解釈論の整合性
2つ目は、 実体法の要件と要件事実論の整理がうまくできない (整合性がうまくとれない)という現象である。
今日のテーマである即時取得(善意取得)は、特にこの2つ目と関連する。
まず、用語の説明からする。
いつぞやの『法学教室』で道垣内弘人先生も述べられていたと思うが、 民法192条が定める制度については、「即時取得」と呼ぶ人もいれば、「善意取得」と呼ぶ人もいる。
そして、現行法の条文見出しは「即時取得」である(ちなみに、 手形法16条2項は善意取得と呼ばれている)。
実は、 これは、 単なる名称の違いではない。
結論から言えば、「即時取得」 という名称を意図的に使う論者は192条を時効制度の一種と捉えており、他方、「善意取得」 という名称を意図的に使う論者は192条を表見法理の一種と捉えているのである。
つまり、「即時取得」派は、
192条とは占有を取得した者が「即時」に当該権利を時効「取得」 する制度である
と説明するのに対し、「善意取得」派は、
192条とは取引安全の観点から前主の占有に対する信頼(善意)を保護する制度である、
と説明するのである(手形法16条2項については、 時効制度であるとする見解が無い――多分――ため、善意取得と呼ばれる)。
例えば、我妻先生は次のように説明される。
192条が「『即時』にその動産の上に行使する権利を『取得』 すると規定しているので(フランス民法が時効の一態様のように見ていることに影響されたものである)、 その効果に着眼して、一般に『即時取得』と呼ばれている。 しかし、近時は取得者の善意の信頼が保護されるという観点から、 『善意取得』と呼ばれることも多い」
(我妻栄/ 有泉亨補訂『新訂 物権法(民法講義2)』〔岩波書店、1983年〕214頁)
両者の最大の差は、 取引の安全をどの程度重視するか、という点にある。
つまり、192条を時効制度の一種と考えるのであれば、 占有取得原因は必ずしも取引行為である必要は無い。
逆に、192条を表見法理の一種と考えるのであれば、 占有取得原因は取引行為である必要がある。
ところで、判例・伝統的通説は、192条の要件として取引行為による占有の取得を挙げる。
従って、以上に述べたことからすれば、判例・伝統的通説は、192条を表見法理の一種と考えているように思われる。
つまり、判例・伝統的通説は、「善意取得」派であると考えられる(恐らく、多数説はこちらだろう)。
しかし、民法の現代語化の際に付された条文見出しは「即時取得」となっているのである。
つづく
【民法】 即時取得(善意取得)の要件・その2〔要件〕
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