【民法】 物権的請求権の相手方・その2
今回も、前回の続きで、物権的請求権の相手方の話。
問題を簡単に再言すると次のとおり。
【問題】
最判平成6年2月8日民集48巻2号373頁は、「土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係」である、と述べた。
では、最高裁は、どの点を捉えて、本来の対抗問題ではないと言っているのか?
そして、それにも拘わらず、どうして対抗問題と類似していると言えるのか?
【解説】
■本来の対抗問題ではない理由
「対抗問題とは何か?」という問題は、物権法上の重大な論点であり、私の手に負える問題ではない。
ただ、その一面だけを取り出して説明すれば、一般的な対抗問題とは、物権変動により物権を取得した者が、この物権取得の利益を第三者に主張し得るかという問題である。
他方、最判平成6年2月8日で問題となっている問題は、物権変動により物権を喪失した者が、物権喪失の反射として生ずる利益を第三者に主張し得るかという問題である。
従って、平成6年判決の問題は、本来の対抗問題ではない、と言うことができる。
■平成6年判決の事案が対抗問題と類似していると言える理由
第1の理由は、一般的な対抗問題も平成6年判決の問題も、物権の帰属を決定する問題であるという点にある。
これは、最高裁が述べているとおりである。
┌――┐
| | Y → Z
| |
――――――
X
第2の理由は、信頼保護の必要性における類似性にある。
即ち、平成6年判決では「YZ間で物権変動が生じた旨の登記が無いから物権変動も無いだろう」というXの信頼があり、公示の原則からすればこの信頼を保護する必要性がある。
他方、AB間で土地甲が第1譲渡され、更にAC間で第2譲渡が為され、登記は依然としてAのもとにあるという典型的な二重譲渡の場合も、Cは、「AB間で物権変動が生じた旨の登記が無いから物権変動も無いだろう」と信頼している。
A ―→ B
|
↓
C
この点で、平成6年判決と本来の対抗問題は類似しているのである。
第3の理由は、上記のXもCも「第三者」(177条)である、という点にある。
これも、最高裁が述べているとおりである。
まず、Cが177条の「第三者」に当たることについては多言を要しないだろう。
何故ならば、Cは土地甲の所有権の帰属について(両立し得ない)重大な利害関係を有しているからである。
問題はXであるが、Xも建物所有権が誰に帰属するかという点で――両立し得ないということは無いが――重大な利害関係を有していると言える。その意味で、「第三者」に当たる。
以上が最高裁の論理に関する1つの説明である。
勿論、これは1つの説明に過ぎないし、そもそも、最高裁の立場に反対する見解も有力である。
ただ、何にせよ、法律学の学習において、判例の理解は非常に重要である。
拙稿が、判例の理解の一助になれば幸いである。
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