【法律学の基礎】 答案の問題提起と条文
今日は、答案の問題提起と条文の話。
いきなり大上段な議論で恐縮だが、法曹は司法府の一員である以上、立法府が制定した法律に従わなければならない。
従って、法曹や、法曹を志す者が行う解釈論は条文に即したものでなければならない。
まさに、東大の中山信弘先生が仰られるように
「法解釈としては、原則として、既定の条文から大きく乖離することはできない。法解釈とは、原則として法の予定した範囲内で、最良の解を求める作業である」
(「財産的情報における保護制度の現状と将来」『現代の法 10 情報と法』〔岩波書店、1997年〕273頁)。
そして、この理は、法律学の答案にも妥当する。
つまり、解答者は、粛々と法――つまり、条文――に従って問題に示された紛争を解決していかなければならないのである。
勿論、試験問題では、機械的に条文を適用していけば解決できる紛争だけが示されているわけではない。
つまり、試験問題では、解答者の「条文解釈」が要求されており、点数の多くはこの部分、いわゆる論点の部分に配点されている。
解答者としては、そのような箇所に遭遇した場合、問題提起 → 解釈&規範定立 → 問題への当てはめ、というプロセスを実行することになる。
そして、このプロセスは、一定の学習・訓練を重ねることで機械的に実行することができる。
だが、答案の中には、この問題提起がお座なりにされているものが少なくない。
即ち、「何故、そのような問題提起がされているのか」、「何故、それが問題となっているのか」が明示されていない答案が少なくないのである。
確かに、現実的には、そのような「論点」は判例や学説によって摘示されるものであり、解答者がその場で完全に1から発見しなければならないものは滅多に無い。
従って、試験問題に示されている論点を発見したら、その論点についてのいわゆる「論証」を「吐き出す」という作業は、試験テクニックとては無駄ではない。
むしろ、効率的だろう。
しかし、解釈の作法としては、やはり、問題提起は丁寧にすべきである。
冒頭に述べたように、法曹を志すのであれば、まずは条文による解決を図るべきである。
換言すれば、論点が発生するのは原則として、以下の3つの場合である。即ち、
1.そもそも直接適用できる条文が無い
2.条文はあるが文言の意義が不明確
3.条文があり、直接適用もできるが、結論がどう考えても不合理
である。
つまり、「そのまま直接適用できる条文があり、かつ、結論が妥当」であれば、論点など発生する必要が無いのである。
この命題の裏が妥当する場合にこそ、論点は発生するのである。
翻って言えば、法律学の問題に対する答案の問題提起としては、上記の3点のいずれかを、簡単にでも示すべきと考えられる。
尚、私は、このような内容を学部時代に教わったが、LECの柴田先生も同趣旨のことを述べられているようである(と言うか、発言の伝播力からすれば、柴田先生が主唱者なのかもしれない)。
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コメント
いつも拝見しています。
自分は理系出身のため、論文の書き方等大変参考になります。
問題提起について1点質問させてください。
問題提起の際に、文末が「・・・といえるか」「・・・が成立しないか」といった疑問形で終わる答案をよく目にします。
論文が出題者の意図に応えるものであると考えると、上記のような書き方だと、形式上、自問自答に思えるため、出題者の意図に応えるという態度と離れていっているような気がしてしまいます。あくまで形式上そのように感じるだけなのかもしれませんが、論文において、また、実務においても上記のように疑問形を使うことは一般的なのでしょうか?
投稿: シロ | 2009年3月15日 (日) 03:06
シロさん、コメントありがとうございます。
自問自答形式については、昔から批判がございます。
結論から言えば、形式的には恐らく、自問自答形式は
答案にふさわしくない書き方だと思われます。
なぜならば、まさにシロさんがご指摘のとおり、答案
作成者は受験生=回答者である以上、淡々と出題者の
問いに答えていくべきだからです。
ただ、これも昔から指摘されていることですが、司法
試験は相対的評価をベースにした試験です。
つまり、司法試験は、皆(多数派)と同じことを行っ
ていれば少なくとも低評価を受けない、という構造に
なっております。
そして、自問自答形式は予備校の授業や教材を通じて
かなり多くの受験生に浸透している書き方です。
実際の司法試験の答案を拝見したことがあるわけでは
ありませんので、あくまで推測なのですが、このよう
な浸透具合からすれば、本番の答案でも自問自答形式
は決して珍しくないと思います。
むしろ、自問自答形式は多数派であり、「スタンダー
ドから乖離しない」という点で、試験委員に違和感を
与えない書き方になっているのではないかと思われま
す。
ですから、司法試験の論文式試験では、自問自答形式
を用いることは一般的と言って良いのではないかと思
います。
ちなみに、実務では自問自答形式はほとんど使いませ
ん(笑)。少なくとも、私はそのような書面を拝見し
たことはございません(^_^;)。
投稿: shoya | 2009年3月16日 (月) 20:22
丁寧な回答ありがとうございます。
未だに問題提起の仕方には苦労していますが、今回の回答でかなりスッキリしました。
今後も過去の記事等参考にさせていただきながら、少しでも論文がうまく書けるよう頑張ろうと思います。
ありがとうございました。
投稿: シロ | 2009年3月19日 (木) 01:55