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2006年6月15日 (木)

【民法】 賃料債権に対する物上代位と相殺の優劣

今日は、賃料債権に対する物上代位と相殺の優劣について。

 

 

■問題

抵当権者Gが、設定者Sの有する賃料債権を物上代位により差し押さえた場合、 第三債務者Mは設定者Sに対して有する債権を自働債権として相殺することができるか。

 




S ―→ M
  ←―

 

 

■説明

この問題は、ややこしい。

何故ならば、物上代位の差押えの趣旨論に加えて、いわゆる「差押えと相殺」の論点が絡む上に、 設定者の有する債権が賃料債権で第三債務者の自働債権が敷金返還請求権の場合には敷金の法的性質も絡んでくるからである。

 

その為、学説の争いは激しく、結論の一致を見ていないが(最高裁判例はある)、大別すれば次の2説に分けることができる (以下の説明では、 ひとまず敷金以外の通常債権が自働債権となっていることを前提とする)。

 

 

第1説は、登記時基準説判例)であり、抵当権者の差押えが為された後の段階では、 第三債務者は抵当権設定登記以後に取得した債権で相殺することはできない (相殺を対抗することはできない)、とする相殺の対抗力が制限され始める時期〔差押時〕と、 相殺が制限される債権の範囲――取得時期〔設定登記時〕以後に取得した債権――がずれていることに注意!)。

 


| …抵当権設定登記 = 価値支配開始

| …差押え = 法による価値支配実現許可

| …相殺

 

何故ならば、 「物上代位権の行使としての差押えのされる前においては、賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが、 上記の差押えがされた後においては、抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ、 物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから、 抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はないというべきであるからである」 最判平成13年3月13日民集55巻2号363頁)。

 

これは、「物上代位と債権譲渡」について述べた最判平成10年1月30日の考え方からすれば素直な結論である。

 

 

 

第2説は、差押時基準説であり、 差押え以前から存在した自働債権であれば第三債務者は差押え後も相殺することができる、 とするここでは登記時基準説とは異なり、 相殺の対抗力が制限され始める時期〔差押時〕と、相殺が制限される債権の範囲――差押え以後に取得した債権―― が一致していることに注意!

 


| …抵当権設定登記 = 抵当目的物について価値支配開始

| …差押え = 賃料債権について価値支配開始 = 法による価値支配実現許可

| …相殺

 

これは以下の理由に基づく。

 

即ち、賃料債権は本来の抵当目的物と異なる価値変形物である以上、たとえ登記が為されているとしても、 抵当権の効力が当然に及んでいるとは言えない。

 

従って、抵当権の効力を及ぼすには別途、差押えが必要であり、差押え時に初めて抵当権の価値支配が具体化する。

 

 

 

尚、設定者の有する債権が未払賃料債権であり、 第三債務者の有する自働債権が敷金返還請求権であった場合には、上記の議論は必ずしも妥当する訳ではない。

 

少なくとも判例は別構成を採る。即ち、このような場合には、賃貸借契約が終了した時点で敷金が未払賃料債務に 「当然に」充当される、とする(最判平成14年3月28日民集56巻3号689頁。尚、 最判昭和48年2月2日民集27巻1号80頁も参照)。

 

従って、このような場合には、抵当権者は物上代位をすることができない。

 

ちなみに、登記時基準説、差押時基準説という学説の名称は、初学者には分かりにくいだろう。

 

内容を端的に説明するのであれば、

 

抵当権による価値支配が登記時に開始される説

 

などにした方が分かりやすいかもしれない(全く威厳は無いが)。

 

 

尚、この流れで言うと、差押時基準説は、

 

抵当権による価値支配が差押時に開始される説

 

ということになる。

 

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