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2006年6月19日 (月)

【商法・会社法】 商業使用人について・その1

今日の話は、ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人について。
尚、以前述べた支配人についての記述も参考になるかもしれない。


ここは、改正によって条文が変わっているので、何はともあれ、条文を確認してみる。


■条文
会社法14条 【ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人】
1項 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。

2項 前項に規定する使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。


商法25条 【ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人】
1項 商人の営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。

2項 前項の使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。


旧商法43条
1項 番頭、手代其ノ他営業ニ関スル或種類又ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人ハ其ノ事項ニ関シ一切ノ裁判外ノ行為ヲ為ス権限ヲ有ス

2項 第38条第3項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス


■注意点
これらの条文は支配人についての条文とは異なり、名称に対する信頼について規定したものではないと一般に考えられている。
従って、名称を信頼したとしても、それだけでは保護されないことになる。


■改正点

条文を比較検討して下されば分かることだが、改正で大きく変わったのは次の2点である。

第1は、「番頭、手代其ノ他」という文言が消滅したという点である。
第2は、2項が準用規定ではなくなったという点である。


では、この2つの変化が従来の解釈に影響を及ぼすのだろうか?


ここからは完全な私見だが、私は、影響を及ぼすのではないかと考えている
具体的には、「ある種類又は特定の事項の委任」という文言の意義に関する事実行為説を採用することは困難になったのではないかと考えられる。


■代理権説と事実行為説
拙い私見を述べる前に、従来の学説の整理をしておこう(従来の判例や学説の整理としては、差し当たり吉本健一「商法43条と使用人の代理権の範囲」『商法(総則商行為)判例百選[第4版]』68-69頁参照)。


学説では、商法24条1項・会社法14条1項(旧商法43条)の「ある種類又は特定の事項の委任」という文言の意義について、事実行為の委任(準委任)があれば足りるとする見解(事実行為説。少数説)と 、代理権の授与まで必要であるとする見解(代理権説。下級審裁判例・多数説)との間で争いがある。


1.代理権説
この見解は以下の理由に基づく。

第1に、商法24条1項・会社法14条1項は、「支配人の代理権」について定めた商法21条1項・会社法11条1項と同じ文言を用いており、「表見支配人」について定めた商法24条・会社法13条――代理権を擬制する規定――とは異なる文言を用いている。


とすれば、商法24条1項・会社法14条1項は、商法21条1項・会社法11条1項と同じく、当該使用人に包括的代理権(有力説によれば主任者としての地位)が付与されていることを前提とした規定であると考えられる。


従って、「ある種類又は特定の事項の委任」とは、代理権の授与を意味すると考えられる。


第2に、事実行為説のように事実行為でも足りるとすると、商法24条・会社法14条の適用範囲が広くなり過ぎる


即ち、「法律行為の権限の委任に限らず単に取引の勧誘、契約条件の交渉事務の委任でも足りるとする……解釈の当否は疑わしい。どのような下級の商業使用人であっても、取引の勧誘を営業主から禁じられているものが果たして存在するであろうか」 という疑念を禁じえないのである(江頭憲治郎「商社の係長の代理権とその制限」ジュリ914号190頁)。


2.事実行為説
この見解は、代理権説のように代理権の授与を要件とする場合には、取引の安全を害するおそれがあるという理由に基づく。

即ち、商法24条1項・会社法14条1項は営業主から一定範囲での権限を与えられた使用人について、この者と取引した相手方を保護する規定である。
そして、相手方としては、会社から付与された権限に基づき、行動しているのであるから、代理権も当然あるであろうと信頼するでろう。


とすれば、この信頼を保護する必要がある以上、代理権授与までは不要であろう(近藤光男「商業使用人の代理権」『川又良也先生還暦記念 商法・経済法の諸問題』10頁)。


■帰結
代理権説に立てば、商法24条1項・会社法14条1項はある程度包括的な代理権を付与された使用人を対象とする規定であり、かつ、そのような使用人にはその事項に関する一切の裁判外の行為を為す権限があるものとみなす規定ということになる(森本滋編『商法総則講義 第2版』〔成文堂、1999年〕105頁参照)。



事実行為説については、従来、次のように言われていた。

即ち、旧商法43条に言う「商業使用人」であるためには、たとえ事実行為説であったとしても「単なる肩書や職名では足りず、営業に関するある程度の包括的な職務権限が与えられていることが必要である」(吉本・前掲論文69頁)。

従って、事実行為説に立つと、商法24条1項・会社法14条1項はある程度包括的な事実行為の権限を付与された使用人を対象とする規定であり、かつ、そのような使用人にはその事項に関する一切の裁判外の行為を為す権限があるものとみなす規定ということになる。


つづく

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