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2006年6月17日 (土)

【民法】 468条2項と「第三者」について

今日は、468条2項に関する質問について、一言。

 

 

【質問】

民法468条2項は次のように定める。

「譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、 その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる」

 

そして、この「その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」には解除(545条)、詐欺(96条)、虚偽表示(94条)も含まれる。

従って、債務者は、債権の譲受人に対して解除や詐欺取消しによる債権の消滅の抗弁や、 虚偽表示による無効の抗弁を主張することができる。

 

しかし、判例・通説によれば、詐欺取消・ 虚偽表示は善意の譲受人に対しては主張することができない

つまり、善意の譲受人は94条2項・96条3項の「第三者」 に該当すると考えられている。

 

但し、解除については、善意の譲受人に対しては主張することができるとされている。

つまり、善意の譲受人は545条1項但書の「第三者」 には該当しないと考えられているのである。

 

では、どうしてこのような差があるのか?

 

【説明】

まず、善意の債権の譲受人が、94条2項・96条3項に言う「第三者」 に該当することについて争いは無い大判大正3年11月20日民録20輯963頁など)。

これは、以下の理由に基づく。

 

そもそも、両条に言う「第三者」とは

当事者、およびその包括承継人以外の者で、虚偽表示、 または詐欺による意思表示によって生じた法律関係について、新たに法律上の利害関係を有するに至った者を言う 佐久間毅『民法の基礎1 総則〔第2版〕』〔有斐閣、2005年〕121頁以下、169頁以下参照。最判昭和49年9月26日民集28巻6号1213頁も参照)。

 

そして、判例・通説の考え方によれば、債権の譲受人は、「法律関係について、新たに法律上の利害関係を有するに至った者」である。

 

何故ならば、判例・通説によれば、債務者Sが第三債務者Mに対して有する債権を差し押さえた債権者Gは第三者に該当するところ、 債権の譲受人はこの差押債権者Gと同様の利害関係に立っているからである。

従って、善意の債権の譲受人は、94条2項・96条3項に言う「第三者」に該当する。

 

 

次に、善意の債権譲受人が545条1項但書の「第三者」に該当しない理由を説明する。

 

判例・通説によれば、545条但書に言う「第三者」とは……


「解除された契約から生じた法律効果を基礎として、解除までに、 新たな権利を取得した者」


……である(我妻榮『債権各論 上巻(民法講義5-1)』 〔岩波書店、昭和29年〕198頁。尚、我妻先生は、この「第三者」の意味は、94条2項・96条3項と同じである、 とされる)。

 

そして、解除された契約から生じた債権を譲り受けた者は、この債権を基礎として新たな権利を取得した訳ではない。

何故ならば、債権自体そのものを譲り受けただけであって、 新たな権利が発生している訳ではないからである。

 

つまり、主として


1. 解除によって債権そのものが消滅してまうことこの点で不動産などの売買契約などとは異なる。 不動産などの売買契約の場合、第三者が取得した所有権自体は解除によっても消滅しない

2. 債権の譲受人は独立の利害関係を有するに至っていないこと


という2つの理由によって「第三者」には当たらないとされているのである。

 

但し、この判例・通説に対しては、少数ながら有力な異論がある。

 

例えば、潮見先生は、解除の法的効果について不遡求構成を採用した上で、545条1項但書の趣旨は 「一定の地位に置かれた第三者を原状回復関係に取り込まないようにすること――第三者側から言えば、解除にもかかわらず、 契約が依然として存在しているのと同様に(原文ママ) 地位に置かれること――を明言した」点にあるはずだ、と述べられる(潮見佳男 『債権総論〔第2版〕1』〔信山社、2003年〕459頁)。

 

そして、このように考えるのであれば、545条1項但書は 「解除前の権利関係が存続する状態を仮定して第三者の地位を確保する」という点で94条2項・ 96条3項と同じ趣旨と言えるから、債権の譲受人も545条1項但書の「第三者」に当たることになる。

 

既に述べたように、判例・通説の立場の根拠は、解除の遡及効という理論的理由と、 債権の譲受人は独立の利害関係を有するに至っていないという利益衡量的な理由に基づく。

 

とすれば、解除の効果について不遡及構成を採るのであれば、判例・通説の立場を支える根拠としては利益衡量しかない。

 

そして、この利益衡量の説得力は弱いだろう。

債権の譲受人は、何故、独立の利害関係を有するに至っていないと言えるのか?  債権の譲受人も通常の売買契約の買主と同様にの取引活動を行っているのである。

 

むしろ、不遡求構成を採用するのであれば、体系的にも潮見先生のように考える方が筋が通っている。

 

翻って言えば、結局、債権の譲受人は545条1項但書の「第三者」に該当しないという判例・通説の見解は、 解除が遡及効を有するという点にのみ支えられているのである。

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コメント

僕は司法試験とは無縁ですが、マンション管理士


試験を受けるに当たって、民法の勉強をする


必要にせまられ、工夫をし始めたところ、こ


の記事を偶然にも見つけたのです。記事の内


容は易しくはないけど、興味深いですね。

投稿: カズ | 2008年9月28日 (日) 16:03

カズさん、コメントありがとうございます。

拙稿がカズさんのご興味をひいたのであれば大変嬉しく思います。

民法は量が多いので、勉強は大変かと存じますが、興味や楽しみがあれば勉強を継続していけるのではないかと存じます。

民法はとっても面白い法律ですので、どうぞ「工夫」を継続して、面白さを発見していただければ、と思います。

投稿: shoya | 2008年10月 4日 (土) 11:46

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