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2006年7月16日 (日)

平成18年度 旧司法試験 民法試験問題 第2問 解答例?

 

第1.問1について

1. 

本件Cは、所有権に基づく本件建物明渡請求をAに対して行っている。しかし、本件では、 Cの配偶者Bが本件建物の登記を勝手にB名義に変更した上、本件建物をAとの間で賃貸借契約を締結している。

 

2.

では、Aは自分には占有正権原たる賃借権があると主張できるか(占有正権原の抗弁)。

しかし、AB間の賃貸借契約は他人物賃貸借である(民法559条、同560条、同601条。以下、条文番号のみの引用は同法を指す)。 したがって、同契約は当事者間でのみ有効である。

よって、Aは賃借権をCに主張することはできないのが原則である。

 

3.

ただ、本件Bは、Cから抵当権設定についての代理権と書類を適法に授与されており、 その代理権と書類を基にして本件建物の登記がB名義に改められている。

 

(1)  では、Aは、自分には「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」(110条) があるとして表見代理の成立を主張することはできるか? この主張が認められれば賃貸借契約締結の効果がCに帰属し、 Aは賃借権を主張することができるために、当該文言の意義が問題となる。

 

(2)  そもそも、110条の趣旨は「権限外の行為」(110条条文見出し)についての代理権に対する信頼を保護する点にある。 したがって、「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」 とは拡大された代理権が不存在であることについての善意無過失を意味すると考えられる。

 

(3)  本件では、Bは自己名義の建物を賃借している。したがって、Bは本件建物の所有者として行動しており、 代理人としては行動していない。そのため、Aの信頼はBの代理権に対しては生じていない。むしろ、Aの信頼は、 本件建物の所有権がBに帰属しているという点に生じている。以上より、Aには「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」が認められない。


よって、Aは表見代理(110条)の成立を主張することはできない。

 


4.

上記のように、Aは、本件建物の所有権がBにあると信頼している。では、この信頼を保護することはできないか。 信頼を保護できればAは真の所有者から建物を賃借したことになり、占有正権原の抗弁を主張できる。そこで、 虚偽表示に対する信頼を保護する規定である94条2項の適用の可否が問題となる。

しかし、本件ではBCが「通じて」いない以上、94条2項を直接適用することはできない。

 


5.

(1)  それでは、AC間に94条2項を類推適用することはできるか?  真の権利者が予定していた外形とは異なる外形が作出された場合の94条2項類推適用の要件の内容が問題となる。

 

(2)  94条2項類推適用のいわゆる意思外形非対応型の場合は、 真の権利者が許容したものよりも大きな虚偽の外観が作出されており、真の権利者を保護する必要性が相対的に高い。そして、この状況は、 本人が許容した対外的な法律関係よりも大きな法律関係が形成されてしまっているという点で110条の状況と類似している。そこで、 110条の法意に基づき、①虚偽の外観の存在、②虚偽の外観作出についての真の権利者の高度の帰責性、 ③外観が虚偽であることについての第三者の善意・無過失が必要であると解する。

 

(3)  本件では、本件建物の登記がBのもとにあるので、①虚偽の外観が存在する。

次に②の真の権利者の高度の帰責性を検討する。確かに、CにとってBは配偶者であり、 CはBに対して高度の信頼を有していると考えられる。したがって、Bの行為に対して常に注意を払えと要求するのは酷とも思え、 高度の帰責性は認められないとも思える。

 

しかし、CはBに抵当権設定登記のための代理権と書類を自ら付与しており、対外的法律関係形成についての関与が認められる。 したがって、自らが選任した者の行動のリスクを負うべきと言える。また、 配偶者という身近な者だからこそ馴れ合いによって権限を踰越する危険性もあると言えること、及び、 抵当権が設定されたか否かをCが1年間も放置して確認していなかったことを併せ考えると、Cに高度の帰責性が認められる。

したがって、②の真の権利者の高度の帰責性が認められる。

 

そして、真の所有者がCであることについてAが悪意であれば、AはBから本件建物を賃借したとは考えられない。ところが、 AはBから本件建物を賃借している。したがって、Aは本件建物の登記が虚偽であることについて善意であった可能性が高い。また、 一般人の取引においては登記の信憑性を前提として良い。したがって、Aが他に為すべき義務があったとは言えない以上、 義務違反たる過失も認められない。そのため、Aは、③外観が虚偽であることについての善意・無過失であると言える。

 

よって、①~③の要件を充足するので、94条2項を類推適用することができる。

 

6.

以上より、Aは、94条2項類推適用によって自分には賃借権があるという占有正権原の抗弁をCに対して主張することができる。

 

 

7. 

尚、もし、Aが、本件建物について必要費・有益費(196条)を支出していた場合には、Aは必要費・ 有益費返還請求権を被保全債権とする留置権を主張することができる(295条)。したがって、留置権に基づく占有正権原の抗弁も主張できる。 但し、留置権は有益費が返還されると消滅してしまうので一時しのぎにしかならない。

 

 

 

第2.問2について

1.小問(1)について

確かに、本件では他人物賃貸人たるBのもとに本件建物の所有権が帰属している以上、BのAに対する明渡請求は不合理であるとも言える。

 

しかし、本件では、Cが、存命中に他人物賃貸借契約の追認(116条類推)を拒絶している以上、その時点で、 本件賃貸借契約はCとの関係では確定的に無効になっていると考えられる。そして、Bは、そのCの立場を相続(896条)している。 したがって、Aは、Cに対して賃借権を主張することができないのと同様に、Bに対しても賃借権を主張することはできないと考えられる。

 

また、この結論は、仮にCが存命していればAが甘受すべきものである。とすれば、 相続を奇貨としてAに明渡拒絶という形での保護を与える必要は無く、損害賠償などで保護を与えれば良いと考えられる。

 

よって、Aは、BがCを単独相続したことを理由に本件建物の明渡しを拒絶することはできない。

 

 

2.小問(2)について

(1) 小問(1)以外の理由に基づく明渡拒絶の主張について

本件では上記のように、Aは、Cに対して94条2項類推適用による占有正権原の抗弁を主張できる。また、 AはCに対して有益費返還請求権について発生する留置権も主張できる。そして、Bは、そのCの立場を相続(896条)している。

 

よって、Aは、これらの抗弁や留置権をBに対しても主張をすることができる。

 

(2) 敷金の返還を受けるまで明渡しを拒絶するという主張について

(ア)  本件Aは、B対して敷金の返還を受けるまで明渡しを拒絶すると主張できるか。この主張が認められるためには、 そもそも敷金返還請求権が発生している必要がある。では、本件Bの敷金返還請求権は発生しているのか。明文がないために問題となる。

 

(イ)  そもそも、敷金契約締結の趣旨は、損害金や延滞賃料等の賃借人の債務を担保するという点にある。そして、 損害金や延滞賃料等は、賃借物の明渡しが為された時点で初めてその存否と内容が判明する。したがって、敷金は賃貸借契約終了後、 建物を明け渡した時点で発生すると考えられる。

 

(ウ)  本件では、Aは本件建物をBに明け渡していないと考えられる。したがって、本件Aの敷金返還請求権は発生していない。

 

(エ)  よって、Aは、敷金の返還を受けるまで本件建物の明渡しを拒絶すると主張することができない。

 


※ 尚、以上の記述は、時間内の解答を一応念頭に置いたものです。従いまして、時間を短縮するために学問的、 理論的には批判の多い記述を敢えてしてある箇所もあります(94条2項類推適用の帰責性など)。ご注意下さい。

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コメント

初めまして

どえらえもん、といいます。

ココログの検索でこちらにたどりつきました。

しかし世の中にはいろんな世界があるのに驚きです。勉強になります~

毎日、でたらめな妖怪人間を相手にしている自分とは大違いです。

どうもお邪魔しました (^^)

投稿: どえらえもん | 2006年7月16日 (日) 22:57

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