【民法】 抵当権侵害・その2 ――抵当権者の損害賠償請求権〔序論〕
今日は、抵当権侵害、特に抵当権者の損害賠償請求権について。
但し、序論だけである。
結論を先取りすると、抵当権者の損害賠償請求権については、大別して3つの問題がある。
■物上代位制度と不法行為責任の関係
第1は、 抵当権者に抵当権侵害に対する固有の損害賠償請求権を認めて良いのか?という問題である。
即ち、抵当権侵害が発生した場合、抵当権設定者が損害賠償請求権を有することについては争いがない以上、 抵当権者としては、設定者が有するその損害賠償請求権について物上代位すれば良いとも思えるために問題になるのである。
換言すれば、抵当権者に固有の損害賠償請求権を認めると、抵当権者は「差押え」(304条1項但書)をせずに損害賠償を請求できることになってしまい、 物上代位制度が無意味になってしまうのではないか、と思われるために問題になるのである。
この問題について、通説は、上記の理由に基づき、原則として抵当権者固有の損害賠償請求権の発生を否定する (例外は、侵害者が侵害について故意を有していた場合)。
他方、判例は、これを肯定する(大判昭和7年5月27日民集11巻1289頁など)
■滅失・ 毀損しただけで「損害」は生じたと言えるのか
第2は、抵当目的不動産が滅失・ 毀損しただけで「損害」は生じたと言えるのか(抵当権侵害における「損害」とは何か?)という問題である。
結論から言えば、判例・伝統的通説は、滅失・毀損されただけでは「損害」は生じない、とする。
即ち、判例・伝統的通説は、滅失・毀損された目的物の残存価値が被担保債権額を下回る場合に初めて「損害」 が生ずる、とするのである。
何故ならば、抵当権が債権を担保する権利である以上、被担保債権を上回る場合には、抵当権は充分に機能しているからである。
しかし、近時の有力説は、滅失・毀損されただけで「損害」は生じる、とする(道垣内弘人 「担保の侵害」山田卓生編集代表『新・現代損害賠償法講座 第2巻 権利侵害と被侵害利益』〔日本評論社、1998年〕 305頁以下など)。
■抵当権実行前の損害賠償請求の可能性
第3は、 抵当権実行前の損害賠償請求の可能性という問題である。
この問題は、第2の問題と似ているが、別の問題である。
つまり、第2の問題は、「いかなる場合に『損害』 は発生していると言えるのか?」という問題である。
他方、ここでの問題は「『損害』が発生しているとしても、 抵当権が実行されるまでは、目的物か幾らで競落されるか分からないのだから、抵当権実行前に損害賠償請求することはできないのではないか?」 という問題なのである。
例えば、甲建物(価額1億円)と乙建物 (価額1億円) につき被担保債権額2億円の共同抵当権が設定されていたが、第三者が乙建物を完全に滅失してしまったとする。
この場合、特段の事情が無い限り、甲建物の価額は被担保債権額を上回っていないので、判例・伝統的通説の立場でも「損害」 は生じていると言える。
しかし、その「損害」が実際に幾らなのかは、甲建物が競落されるまでは分からないのである。
競落人が1億円で競落すれば「損害」は1億円だが、5000万円で競落すれば「損害」は1億5000万円ということになる。
この問題について、判例は、 被担保債権の弁済期到来後であれば抵当権実行前でも損害賠償請求をすることができる、とする (前掲大判昭和7年5月27日)。
そして、「損害」が幾らであるかについては、損害賠償請求権を行使する時点での目的物価額の減少分を評価して算定すれば良い (実際の競落額との差は抵当権実行時等に調整すれば良い) とする。
他方、有力説は、被担保債権の弁済期到来前でも損害賠償請求をすることができる、とする 。
そして、「損害」が幾らであるかについては、不法行為時の目的物価額の減少分を評価して算定すれば良いとする (論者は必ずしも明らかにしていないが、 実際の競落額との差は抵当権実行時等に調整されると考えられる)
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