【民法】抵当権と付加一体物 ――従物は付加一体物なのか
■はじめに
今日は、抵当権の効力の話。
古典的な論点として、従物に抵当権の効力は及ぶか?という問題がある。
ちなみに、この論点は、次のようにも表現されることがある。
即ち、従物は付加一体物(370条本文)なのか?という表現である。
【抵当権の効力の及ぶ範囲】
第370条
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び第424条の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は、この限りでない。
本稿では、この論点について説明する。
■定義
付合物とは、異なった所有者に属していた2個以上の物が、分離されると経済上不適当と認める程度に結合して、1個の物と認められた物を言う(242条1項本文参照)。
従物とは、独立の所有権の客体としての資格を失わないで、しかも継続して他の物の経済的効用を果たす為に、これと空間的に結合されている物を言う。
■説明
まず、付合物が「付加一体物」に含まれることに争いは無い(いわゆる弱い付合の場合も争いは無い)。
従って、付合物については抵当権の効力が及ぶ。
例えば、土地に抵当権を設定した場合、原則として石垣や敷石にも抵当権の効力は及ぶことになる。
また、実は、従物についても、現在ではその存在時期を問わず、常に抵当権の「効力が及ぶ」ということについて、ほぼ争いは無い。
問題は、その説明の仕方である。
即ち、「従物は付加一体物に含まれる」として370条で説明をするか、それとも、87条2項を拡張解釈して説明するか、という問題である。
この問題についての判例の立場は必ずしも明らかではない。
ただ、設定時に存在する従物については87条2項を純粋に適用し、設定後に付加された従物については87条2項を拡大解釈――「処分」の意義を抵当権設定からその実行までの一体的行為と解釈――する見解を採用している、と一般的には考えられている。
そして、この見解は以下の理由に基づくものと分析されている。
即ち、「87条2項は主物・従物間の経済的結合に基づいて両者の法律的運命を共通ならしめんとすることを趣旨とする規定であるから、同条項の『処分』は、少なくとも抵当権の設定に関するかぎり抵当権の設定という一時点の行為のみを意味するのではなく、さらにその後の抵当権の実行までの一体としての態様を意味するものと解すべき」(柚木馨=高木多喜男編『新版 注釈民法(9) 物権(4)』〔有斐閣、平成10年〕〔山崎寛執筆〕43頁より抜粋)である。
他方、通説は、従物の存在時期を問わず、370条で説明する。
この見解は以下の論理に基づく。
即ち、370条は抵当権の効力に関する意思解釈規定である。
そして、抵当権とは、抵当権者からすれば目的物の交換価値(経済的価値)を支配する為の権利である。
とすれば、抵当権者・設定者の間で重要なのは物の「法的性格」ではなく物の「経済的価値」であろう。
従って、合理的な当事者であれば、抵当目的物と経済的に一体を為す物についても抵当権の効力を及ぼす意思を有していたと考えられる。定義から明らかなように従物は主物と経済的に一体を為している。
故に、従物も「付加一体物」に含まれる。
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コメント
TBありがとうございました。
ブログ拝見させていただきました。
私のように資格取得目指してる人間にとってはありがたい内容のブログですね。
初心者には絶対理解不可能ですが。。。
確かに87条370条242条規定は理解が難しいし、判例もどっちつかずな立場を取っているので、ハ(;・Д・)?って思ってしまいますよね。
そこが民法の面白いところでもあるでしょうけれど。
今後参考にさせていただきます。
投稿: ぎりぎりママ | 2006年7月 5日 (水) 09:00