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2006年7月27日 (木)

【民法】 抵当目的不動産から搬出された分離物に対する物権的請求の可否について

今日は、Kさんから質問があったので、 抵当目的不動産から搬出された分離物に対する物権的請求の可否について

 

尚、この問題については、道垣内弘人 「抵当権の効力の及ぶ範囲」安永正昭=道垣内弘人『民法解釈ゼミナール2 物権』(有斐閣、1995年) 107頁以下 の記述が有益です。

 

 

■はじめに

今日、取り扱う問題は、いわゆる抵当権侵害の問題である。

そして、抵当権侵害への対応策の1つとして、抵当権に基づく物権的請求権がある。

 

更に、その抵当権に基づく物権的請求権には2つの類型がある。

第1は、 第三者が抵当目的不動産を不法占拠している場合の物権的請求権である。

 

第2は、抵当目的不動産から動産が分離・ 搬出された場合の物権的請求権であり、これが今回のテーマである。

 

 

■設例

Sは、自己のGに対する債務を担保するため、自己の土地に抵当権を設定した。

 

その後、抵当権設定者Sの手によって、抵当目的物たる土地から庭石が分離・搬出され、Mに引き渡された場合、抵当権者Gは、 分離物たるその庭石について物権的返還請求権を行使することができるのか?

 



■問題の構造

抵当目的不動産から動産が分離・搬出された場合の物権的請求の可否を考えるに際しては、2つのステップ(論点)を検討しなければならない。

 

第1の論点は、分離・搬出物についても抵当権の効力が及ぶか、 という問題である。

 

第2の論点は、抵当権の効力が及んでいるとして、 それを第三者に主張することができるか、という問題である。

 



■分離・ 搬出物についても抵当権の効力が及ぶか

この問題について、多数説は、一般法理を根拠に抵当権の効力は及んでいる、とする。



即ち、物権法の一般法理からすれば、一旦ある客体に対して抵当権の効力を及ぼしたのであれば、 当該抵当権に優越する別の権利が登場しない限り、その抵当権の効力は及び続ける。

 

そして、分離・搬出物については370条で抵当権の効力が一旦及んでいる。

 

従って、たとえ分離・搬出されても抵当権の効力は及び続けることになる(ちなみに、この見解は、370条はあくまで付加一体物を対象とした条文であり、分離・ 搬出物に関する明文は存在しないという考えを前提とする。だからこそ、一般法理を持ち出すのである)。



他方、少数説は、搬出された物については抵当権の効力は及んでいない、とする。

 

即ち、370条本文によれば、抵当権の効力は、あくまで抵当不動産に付加して一体となっている物に対して及ぶとされている。

 

従って、分離かつ搬出されてしまえば、もはやその動産は付加一体物では無い以上、抵当権の効力は及ばない。

 



■抵当権の効力が及んでいるとして、 それを第三者に主張することができるか

この問題について、学説は大別して2つの見解に分かれる。

即ち、対抗問題構成(我妻説など)と公信問題構成 (高木説・内田説など)である。



 ここで言う「公信問題」 は通常の場合とは若干意味が異なるので注意。

 

通常、「公信問題」と言えば、無権利者からの譲受人をいかにして保護すべきか、 という問題を意味するが、ここで問題になっている抵当権設定者Sは完全な無権利者ではない。

 

抵当権の効力が及んでいない純粋な動産所有権をMに譲渡することができない、 という意味でのみ無権利者なのである。



対抗問題と構成するのであれば、分離物にも抵当権の効力は及ぶが、 第三者に対抗するには対抗要件が必要ということになる。

 

そして、抵当不動産については登記が可能であるから、分離物が抵当不動産の上にある場合は、たとえ第三者に売却されたとしても、 抵当権を対抗することができる。

 

しかし、分離物が抵当不動産の上から搬出されると、抵当権は消滅しないが、第三者に対する対抗力を失う。

 

つまり、分離物が登記という「公示の衣」の外に出てしまうので、対抗力が消滅するのである。

 

従って、分離物が抵当不動産から搬出され、「第三者」に帰する場合、抵当権を対抗することができないので、 その者との関係では抵当権は消滅することになる。

 

故に、Mが「第三者」(178条) に当たるのであれば、Gは、Mに対して抵当権に基づく物権的請求権を行使することはできない。

 

他方、公信問題と構成するのであれば、分離物に抵当権の効力は及び続け、 第三者は抵当権の負担付きの所有権を取得することになる。

 

但し、第三者が即時取得すると、抵当権の効力は消滅することになる。

 

故に、Mが即時取得したのであれば、Gは、Mに対して抵当権に基づく物権的請求権を行使することはできない。

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コメント

早速の記事、ありがとうございます。
長い間放置して悩んでいたのですが、クリアにわかった気がします。
「抵当権の負担付きの所有権を取得」というところなど、意識していませんでした。
この場合の即時取得の根拠条文は、192条となるのでしょうか。
民法解釈ゼミナールも図書館で読んでみようと思います。
ありがとうございました。

投稿: k | 2006年7月27日 (木) 17:34

この場合の根拠条文は192条です。

投稿: shoya | 2006年7月27日 (木) 19:22

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