【民法】 抵当権の効力は法定果実に及ぶのか?
今日は、抵当権の効力は法定果実に及ぶのか?という(かつての)論点について。
結論から言えば、現行法下では、被担保債権の債務不履行前は抵当権の効力は天然果実・法定果実に及ばないが(371条反対解釈)、債務不履行後は天然果実にも法定果実にも及ぶ。
ところが、平成15年改正前の民法では、抵当権の効力が法定果実に及ぶか否かは論点の1つであった。
では、何故、このような論点が存在したのであろうか?
今回の記事では、その理由を説明する。
■定義
まず、定義について述べる。
天然果実とは、物(元物)の経済的利用法に従って収取される収益を言う(88条1項)。
他方、法定果実とは、物(元物)、または元本の使用の対価として受け取る金銭その他の物を言う(88条2項)。
■説明
旧法下の判例では、抵当権の効力は法定果実には及ばない、とされていた。
何故ならば、法定果実は有体物でも付合物でもない以上、旧370条、および旧371条とは無関係であって、凡そ抵当権の効力が及ぶ存在ではないと考えられていたからである(大判大正2年6月21日民録19輯481頁等)。
旧民法370条
抵当権ハ抵当地ノ上ニ存スル建物ヲ除ク外其目的タル不動産ニ附加シテ之ト一体ヲ成シタル物ニ及フ但設定行為ニ別段ノ定アルトキ及ヒ第424条ノ規定ニ依リ債権者カ債務者ノ行為ヲ取消スコトヲ得ル場合ハ此限ニ在ラス
旧民法371条(平成15年改正前のもの)
1項
前条ノ規定ハ果実ニハ之ヲ適用セス但抵当不動産ノ差押アリタル後又ハ第三取得者カ第381条ノ通知ヲ受ケタル後ハ此限ニ在ラス
2項
第三取得者カ第381条ノ通知ヲ受ケタルトキハ其後1年内ニ抵当不動産ハ差押アリタル場合ニ限リ前項但書ノ規定ヲ適用ス
つまり、かつての判例は、立法者と同じく、旧370条の「付加一体物」は付合物のみを意味する、と考えていたのである。
そして、そのように考えるのであれば、旧370条の例外規定である旧371条に言う「果実」も、付合物たりうる「果実」、即ち、天然果実を意味することになる。
そのため、かつての判例は、抵当権の効力は法定果実には及ばないと考えていたのである。
しかし、この判例の考え方は論理の飛躍がある上に(条文及び価値権説は法定果実に効力が及ぶことを否定していない)、少なくとも差押え後は法定果実にも抵当権の効力を及ぼす必要性があるという学説の批判が強かった。
その為、平成15年改正により、371条の文言が「抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ」という文言に改められ、370条の例外規定としての性格が消滅した。
この結果、抵当権の効力は法定果実に及ぶか、という論点も一応消滅することになったのである。
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コメント
たびたび、回答して頂きありがとうございます。
ここで、質問することではないかもしれませんが、抵当権の効力が、分離物に対しても及ぶか、返還請求できるか、という問題についての質問です。
抵当権者は、分離物を即時取得されないかぎり、第三者に対して、抵当権設定者のもとへ返還するよう請求できるという考えについて、どのように考えるべきでしょうか。
この点についての、登記の衣という他の考えがよくわからないので、上記のような考えで、考えています。
しかし、抵当権設定者であっても所有者であるため、条文上の即時取得が想定している場面ではないのではないかと思い(この点は、抵当権設定者は不法な搬出をしていることから、無権限者と考えるのでしょうか)、即時取得されないかぎりという表現で考えてよいのか、悩んでいます。
投稿: k | 2006年7月27日 (木) 16:00
ここで、というのは、この記事との関連で、というつもりで書きました。
失礼します。
投稿: k | 2006年7月27日 (木) 16:06
kさん、こんにちは。
簡単ではありますが、ざっくりと説明してみました。
お役に立てば幸いです。
ご不明な点等がございましたら、またご質問下さい。
それでは、失礼致します。
投稿: shoya | 2006年7月27日 (木) 17:18