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2006年7月29日 (土)

【民法】 94条2項類推適用+110条類推適用

94条2項類推適用については、以前にも書いたが、 今日は、最高裁平成18年2月23日第1小法廷判決が提示した 「94条2項類推適用+110条類推適用構成」について、一言(?)。

 

 

 

 

■従来の判例

従来、判例が採用する94条2項類推適用の類型には、大別して2つのものがあった(尚、94条2項類推適用についての一般論としては、佐久間毅 『民法の基礎1 総則』〔有斐閣、2005年〕132頁以下参照。同書のこの部分に関する記述は客観的に見て優れていると思う)。

 

第1は、 単純に94条2項を類推適用する類型である(いわゆる意思外形対応型)。

 

第2は、94条2項を類推適用すると共に、 110条の「法意」を用いる類型である(いわゆる意思外形非対応型。 判例が何故、110条の法意を用いたかについては、佐久間・前掲書137頁参照)。

 

そして、第1の類型は、更に、いわゆる外形権利者作出型、外形他人作出型に分かれると学説では指摘されている。

 

以上をまとめると、次のような体系になる。

 

【94条2項類推適用の類型】

┌ 94条2項類推単独型 ―┬― 外形権利者作出型
|   (意思外形対応型)    └―  外形他人作出型

└ 94条2項類推+110条「法意」型(意思外形非対応型

 

 

 

■最高裁平成18年2月23日第1小法廷判決

最高裁は、本判決で、更に、「94条2項類推適用 + 110条類推適用」という類型を判示した。

 

「前記確定事実によれば,上告人は,Aに対し,本件不動産の賃貸に係る事務及び… …土地についての所有権移転登記等の手続を任せていたのであるが, そのために必要であるとは考えられない本件不動産の登記済証を合理的な理由もないのにAに預けて数か月間にわたってこれを放置し,Aから…… 土地の登記手続に必要と言われて2回にわたって印鑑登録証明書4通をAに交付し, 本件不動産を売却する意思がないのにAの言うままに本件売買契約書に署名押印するなど,Aによって本件不動産がほしいままに処分されかねない状況を生じさせていたにもかかわらずこれを顧みることなく,さらに,本件登記がされた平成12年2月1日には, Aの言うままに実印を渡し,Aが上告人の面前でこれを本件不動産の登記申請書に押捺したのに, その内容を確認したり使途を問いただしたりすることもなく漫然とこれを見ていたというのである」。

 

「そうすると,Aが本件不動産の登記済証, 上告人の印鑑登録証明書及び上告人を申請者とする登記申請書を用いて本件登記手続をすることができたのは, 上記のような上告人の余りにも不注意な行為によるものであり,Aによって虚偽の外観 (不実の登記)が作出されたことについての上告人の帰責性の程度は, 自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである」 。

 

「前記確定事実によれば,被上告人は,Aが所有者であるとの外観を信じ,また, そのように信ずることについて過失がなかったというのであるから,民法94条2項,110条の類推適用により, 上告人は,Aが本件不動産の所有権を取得していないことを被上告人に対し主張することができないものと解するのが相当である」

 


 

 

■現在の判例の94条2項類推適用の類型

従って、現在では、最高裁は次のような体系を採用していると考えられる(本判決の考え方が今後も維持されるとして、だが)。

 

┌ 94条2項類推単独型 ―┬― 外形権利者作出型
|   (意思外形対応型)    └―  外形他人作出型

├ 94条2項類推+110条「法意」型(意思外形非対応型

└ 94条2項類推+110条「類推」型

 

 ただ、 本判決の調査官は従来の判例についても「類推」という表現を用いているため、本判決の内容は必ずしも明確ではない。

 

 

尚、本判決については、佐久間毅「民法94条2項および民法110条の類推適用による不動産登記名義に対する正当な信頼の保護」 NBL834号(2006年)18頁以下がある。

 

同論文では、


「不注意による行為と意思に基づく行為は (帰責根拠として)質的に異なり、両者は簡単に『同視し得る』ものではないから……」(同論文21頁)


などの佐久間先生らしい丁寧な論理が記されており、初学者の方も含め、本判決に興味がある方には、御一読をお薦めする。

 



※ 内容に誤りがありましたので、一部訂正致しました。 ご迷惑をお掛けしました(平成18年7月30日) 。

 

 

【追記】

他の参考文献としては、

 

中山布紗 「不実の所有権移転登記がされたことにつき所有者に自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視しうるほど重い帰責性があるとして民法九四条二項、 一一〇条を類推適用するべきものとされた事例」北九州市立大学法政論集34巻1=2号156頁

 

佐久間毅「民法94条2項・ 110条の類推適用による不動産登記への正当な信頼の保護」判例セレクト2006(法学教室318号別冊付録) 19頁

 

などがある。

 

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