平成18年度 旧司法試験 民法試験問題 第1問 解答例?
とりあえず、解答例をざっくりと考えてみました。
拙いものですが、何かしらのお役に立てば望外の喜びです。
また、誤字・脱字、思い違い、間違い等がございます場合、ご指摘頂ければ幸いに存じます。
■第1問・問1
(1)
考えられる法律構成としては、第1に、取消の遡及効(121条本文)を制限することによって、いわゆる復帰的物権変動を認める構成がか考えられる(判例はこの構成を採用する)。
そして、この構成の場合、AC間における甲の所有権の帰属は178条によって決せられることになる(以下、対抗構成と呼ぶ)。
第2に、取消の遡及効を徹底することによって、Bを無権利者と考える構成が考えられる(有力説はこの構成を採用する)。
そして、この構成の場合、AC間における甲の所有権の帰属は、甲は動産であるから、192条によって決せられることになる(以下、公信構成と呼ぶ)。
(2)
1. 対抗構成において、Cが甲をAに返還しなければならない場合とは、2つ考えられる。
第1は、Aが先にBから「引渡し」(178条)を受け、かつ、Cが即時取得(192条)による保護を受けられない場合、つまり、CがBが無権利であることについて悪意であったか、または過失があった場合である。
では、この場合、CはBに対していかなる請求をすることができるか。
まず、AがBから引渡しを受けた時点で、甲の所有権はBからAに確定的に移転している。従って、BはCに対して、他人物たる甲を売却したことになる。よって、Bはいわゆる他人物売買の担保責任(561条)を負うと考えられる。
但し、本問では、Cが、Bが無権利であることについて悪意、または有過失であることが前提になっている。
そして、Cが、Bの無権利について悪意である場合には、甲が他人物であったことについても悪意であると考えられる。
よって、Cが、Bの無権利について有過失に過ぎなかった場合は、Cは、Bに対して履行利益を含む損害賠償を請求することができるし(561条前段)、BC間の契約を解除することもできる。
契約を解除した場合には、703条に基づいて300万円の返還を請求することができると考えられる。
他方、Cが、Bの無権利について悪意であった場合には、解除しかできない(561条後段)。
ちなみに、悪意であった場合には、争いあるも、判例によれば債務不履行に基づく損害賠償請求(415条)はすることができる。
更に、いずれの場合でも、Bの故意、または過失によってCに損害が生じた場合には不法行為に基づく損害賠償請求(709条)をすることができる。
第2は、CがAより先にBから引渡しを受けていたが、Cがいわゆる背信的悪意者であった場合である。
この場合、Cは、BC間の契約を解除して、300万円の返還を請求することができる(561条後段、703条)。また、不法行為に基づく損害賠償請求(709条)をすることもできる。
この場合,Cは不法行為に基づく損害賠償(709条)をすることができる。但し,過失相殺される可能性が極めて高い。
2. 公信構成において、Cが甲をAに返還しなければならない場合とは、192条による保護を受けることができない場合である。
つまり、Cが、Bの無権利について悪意であったか、または過失があった場合であって、この場合の処理は対抗構成と同じである。
では、Cに、94条2項を類推適用することはできないか?
結論から言えば、Cが、Bの無権利について善意(≠悪意)かつ有過失であるために192条の適用を受けることができなかった場合には、94条2項を類推適用することができると考えられる。
何故ならば、有力説に従えば、本問はいわゆる意思外形対応型であって、第三者の主観的要件としては善意で足りるからである。
尚、対抗構成の場合は、Bに甲の所有権が帰属していたことについて争いは無い以上、94条2項を類推適用する余地は無いと考えられる。
■第1問・問2
考えられる法律構成としては、第1に、判例のように、対抗問題としてではなく96条3項で処理する構成と、第2に対抗問題として178条で処理する構成が考えられる。
第1の構成の場合、判例・通説によれば、CがAの意思表示が詐欺に基づくものであることについて善意であれば、それだけで「善意の第三者」に該当し、甲の所有権はCに帰属することになる。
つまり、この構成の場合、「善意の第三者」は、対抗要件としての登記も、権利保護資格要件としての引渡しも不要と考えられるのである。
何故ならば、真の権利者は、詐欺取消を「善意の第三者」に対抗することができない結果、「善意の第三者」との関係では無権利者として扱われる以上、「第三者」(178条)ではないからである。
従って、対抗要件としての引渡しは不要である。
また、判例によれば、96条3項の趣旨は、第三者が法律上の利害関係を有するに至った時点――契約時――における第三者の信頼を保護するという点にある以上、引渡しという契約時以後の事実は、第三者の信頼に影響を及ぼすものではない。
従って、権利資格保護要件としての引渡しも不要である。
他方、第2の構成の場合、CがAより先に「引渡し」を受けていたのであれば、甲の所有権はCに帰属することになる。
つまり、この構成の場合、第三者は背信的悪意者でない限り保護されるのである。
そして、両者の差異は、結局、単なる悪意者を保護の対象から外すか否かという点にある。
結論から言えば、第1の構成が説得力に富むのではないかと考えられる。
確かに、登記のような公示手段が存在しない動産物権変動においては、不動産物権変動よりも動的安全を図る必要がある。
従って、単純悪意者も保護するべきであり、第2の構成の方が妥当とも考えられる。
しかし、そのように考えると、取消しの遡及効(121条)を完全に無視することになってしまい、解釈論としては妥当ではあるまい。
また、被詐欺者は落ち度があるとは言え、騙されているのであって、静的安全保護の必要性は否定できない。
しかも、競争原理が全面的に妥当する場面では無い以上、単純悪意者の保護の必要性は高くはあるまい。
故に、第1の構成が妥当であると考えられる。
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