旧司法試験 論文問題 商法第2問 解答例?
XのYに対する請求が認められるためには、ア・Aの振出が手形行為として有効に成立していること、イ・それによって発生した手形債権がXのもとに移転しており、かつ、行使できること、が必要である。
そこで、以下では、これらの要件について検討する。
第1.Aの振出は手形行為として有効に成立しているか
1.
まず、Aは、受取人欄、満期欄及び振出日欄を空白にしたまま、Bに振り出しているが、これは手形要件を欠いており、形式的に無効なのではないか?
この問題について、判例・学説は、手形要件を欠いていたとしても、いわゆる白地手形(手形法10条参照。以下、特に断りなき限り条文番号は手形法である)として有効になる余地がある、とする。
そして、いかなる手形が白地手形と言えるか、については争いあるものの、伝統的通説によれば、手形行為者となろうとする者が、後日その取得者に手形要件を補充させる意思を有しているか否かによって決せられる。
これを本問について見るに、Aは記名こそしているものの、「売主との話がついたら返す」という契約のもとに手形をBに交付している。
とすれば、Aは、あくまでBの便宜のために手形を交付したに過ぎず、補充意思は有していなかったのではないかと考えられる。
従って、本件手形は白地手形ではないと考えられる。
よって、Aの振り出しは形式的に無効であると考えられる。
2.
ただ、仮に、Aが補充意思を有していたと考えると、本件手形は白地手形として有効である。
この場合は、手形理論が問題となる。
即ち、AはBの仲介の便宜を図るために手形を交付しているが、この交付をもって、有効な振出があったと言えるかが問題となる。
この問題について、最高裁がいかなる法的構成を採用しているかについて争いがあるが、最高裁は少なくとも、振出人が流通に置く意思で署名したことを要求している。
これを本問について見るに、Aは、前述のとおり、Bの仲介の便宜を図るために手形を交付しているのであって、流通に置く意思は有していないと考えられる。
よって、Aの振出は有効な振出はあったと言えないのが原則である。
3.
但し、上記のいずれの論理についても、それらを貫くと、補充意思や流通に置く意思という手形外の事情によって手形債務の有無が決せられることになってしまい、手形取引の安全を害する危険性が高い。
特に、本件のように要件が補充された後の手形取得者の信頼を害する危険性が高い。
そのため、学説では、いわゆる権利外観法理によって補完すべき、という主張が強い。
そして、この主張に従えば、①署名いう外観(補充意思や流通に置く意思があるような外観)が存在し、②署名をしたという帰責性が存在し、③所持人が署名を信頼した場合には、たとえ振出が無効であったとしても、所持人は保護される。
まず、Aは、①署名をしたと言えるのか。
本件では、Aの署名は記名捺印によって為されているが、捺印が銀行届出印ではない代表者印で為されているために問題となる。
この問題について、最高裁は、記名捺印の場合の印鑑の種類・内容を問わないとしている。
従って、本件のように、銀行届出印以外の印鑑で捺印されていたとしても、それは署名として有効であり、①署名をしたと言えると考えられる。
そして、②の要件は充足すると考えられる。
更に、③の要件については事情が明らかでないものの、補充意思や流通に置く意思があるような外観が不実であることについてXが善意・無重過失であれば、③の要件も充足する。
よって、Xが善意・無重過失である場合は、有効な振出しが認められる。
第2.手形債権がXのもとに移転しており、かつ行使できるのか
前述のとおり、Xが善意・無重過失である場合には、権利外観法理によってXのもとに手形債権が発生している。従って、移転の問題はクリアされる。
そして、Xが、振出人Yに支払を求めるためには、手形の「呈示」が必要であるところ(77条3号、38条)、呈示を為しうるのは形式的資格を有する「適法ノ所持人」(77条1号、16条第1文)である。
では、Xは「適法ノ所持人」と言えるのか。本件では受取人欄と裏書人欄の名前が形式的に一致していないために、「裏書ノ連続」の有無が問題となる。
結論から言えば、「裏書ノ連続」は認められると考えられる。
何故ならば、「Z社大阪支店」という受取人欄と「Z社大阪支店長甲山一郎」という第1裏書人欄を併せて読めば、両者がともに「Z社大阪支店」を指すことは社会通念上明らかと考えられるからである。
従って、「裏書ノ連続」が認められるので、Xは「適法ノ所持人」と言える。
故に、Xの請求は認められる。
※「裏書ノ連続」について修正しました。
【修正前の論証】
結論から言えば、「裏書ノ連続」は認められないと考えられる。
何故ならば、「Z社大阪支店」と「Z社大阪支店長甲山一郎」は完全に別個の人格だからである。
従って、「裏書ノ連続」が認められない以上、Xは「適法ノ所持人」とは言えない。
よって、Xが「Z社大阪支店」と「Z社大阪支店長甲山一郎」との間で権利が移転したことを立証しない限り、手形債権はXのもとに移転したとは言えない。
故に、Xがこの立証をしない限り、Xの請求は認められない。
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コメント
>>何故ならば、「Z社大阪支店」と「Z社大阪支店長甲山一郎」は完全に別個の人格だからである。
これは勉強しなおした方がいいよ。
投稿: 通りすがり | 2006年7月19日 (水) 22:22
本当に、仰るとおりです(汗)。
投稿: shoya | 2006年7月20日 (木) 00:18