【手形法】 手形行為独立の原則と悪意者の関係・その1
今日は、手形行為独立の原則と悪意者の関係について、問題&解説を2つ
まずは、基本的な論点を1つ。
■問題・その1
A → B → C → D
Aが手形を振り出し、Eまで転輾流通したとする。
ところが、実はBC間の手形行為は、CがBのもとから手形を盗取した上、偽造したものであった。
そして、Dは、Cの偽造について悪意であった。
このとき、Dは、手形行為独立の原則によって保護されるのだろうか?
即ち、DはCに対して遡求することができるのか?
■解説
ご存知のように、この論点については、見解が分かれている。
即ち、手形行為独立の原則は、手形行為の性質上、当然に認められるものだ、とする見解(当然説)に立つ論者は悪意者にも手形行為独立の原則の適用は認められる、とする。
何故ならば、Cが自ら債務を負担すると意思を表示している以上、Dの善意・悪意を問わずその効力は発生するはずだからである。
他方、手形行為独立の原則は、政策上、法が特別に認めたものだ、とする見解(政策説)に立つ論者は――争いはあるが――、悪意者には手形行為独立の原則の適用は無い、とする。
何故ならば、悪意者は、善意取得が認められない以上、その手形を保持することは許されないはずであり、その意味で保護に値しないからである(政策説の中の有力説の見解。上柳説など)。
これをやや丁寧に説明すると、次のとおりである。
そもそも、悪意者Dに手形行為独立の原則の適用を肯定するということは、Dに遡求のために手形を保持することを認めるということを意味する。
しかし、本問における真の所持人であるBは、本来盗取された手形の返還を認めることができるはずである。
とすれば、Dに所持を認める(=手形行為独立の原則の適用を肯定する)のであれば、Bの返還請求権を否定するだけの実質的利益がDに認められなければならないと考えられる。
そのための法制度として、手形法は善意取得を定めている。
だが、Dは、悪意者であるから善意取得は認められない。
従って、悪意者Dには、Bの返還請求権を否定するだけの実質的利益は認められない以上、手形行為独立の原則の適用は認められない。
つづく
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