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2006年7月26日 (水)

【手形法】 手形行為と民法の意思表示規定の関係

今日は、質問を受けたので、手形行為と民法の意思表示規定の関係について。


■定義
法律行為とは、「意思表示を要素に含む権利変動原因」を言う(佐久間毅『民法の基礎1 総則〔第2版〕』〔有斐閣、2005年〕37頁)。

そして、手形行為とは手形という有価証券上に為される法律行為を言う。


■問題の所在
従って、手形行為も意思表示を要素に含むものである以上、一般法たる民法の意思表示規定(民法93条以下)の適用があるはずである。


しかし、結論から言えば、民法の意思表示規定を全面的に適用する見解は極めて少数である(田邊説など。但し、田邊説は明快である)。


何故ならば、民法の規定は一般私人間の法律関係、即ち、固定的・不動的な当事者を念頭においた規定であって、迅速に転輾流通する商取引を為す当事者に対応した規定ではないからである。


では、民法の意思表示規定の適用の当否問題についてはどのように処理すべきか?


■修正適用説
この見解は、伝統的多数説が採用する考え方であり、原則として意思表示規定の適用を認めるが、一部、適用の仕方に修正を加える。


即ち、民法93条、94条、96条(但し、詐欺のみ)については、そのまま適用する。

何故ならば、これらの規定には善意者保護規定が定められており、そのまま適用しても問題は無いと考えられるからである。


他方、95条、96条(強迫のみ)については、修正して適用する(修正の具体的内容は論者によって様々である)。

何故ならば、これらの規定には善意者保護規定が定められておらず、そのまま適用すると問題があると考えられるからである。


そして、この見解の場合、意思の欠缺については人的抗弁ではなく、物的抗弁になる「はず」である。
何故ならば、人的抗弁は手形債務が成立していることを前提とする抗弁だからである。


つまり、意思が「欠缺」している場合、債務が不成立である以上、人的抗弁とは考えられないのである。


■適用排除説
この見解は、手形を手形として認識して署名すれば、それで意思表示は完了するのであって、民法の意思表示規定は適用されない、とする。

何故ならば、手形行為は単なる意思表示ではなく、書面を通じて為される意思表示だからである。


ちなみに、この見解は、創造説に親和性があるが、別に交付契約説でも矛盾はしない。


但し、民法の規定が適用されないとしても、意思表示の瑕疵・欠缺について悪意の者まで保護する必要性は無い。
そのため、この結論を導くために幾つもの理論構成が考えられている。


代表的な見解としては手形法17条但書の人的抗弁をここで用いるものがある。


しかし、この手形法17条は、「原因関係」の瑕疵・欠缺を対象とする規定であって、「手形関係」の瑕疵・欠缺を対象とするものではない。

従って、少なくとも直接適用は理論的に無理がある。


他の代表的な見解としては、一般悪意の抗弁(権利濫用・信義則違反)で処理するものがある。


■判例
判例がいかなる立場を採用しているかは必ずしも明らかではなく、その評価については争いがある。

有力な見解は、判例は「適用排除説 + 17条但書」という構成を採用している、とする。

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