【刑訴】 訴因変更についての覚書・その2
前回に引き続き、今日も、訴因変更について、若干の考察。
■問題
何故、「単一性」または「同一性」が認められれば、
「公訴事実の同一性」ありとして訴因変更を認めて良いのか?
■単一性
判例・伝統的通説によれば、単一性とは、現訴因と新訴因とが実体法上一罪の関係にあることを言う。
では、何故、単一性が認められれば「公訴事実の同一性」も認められるのか?
結論から言えば、単一性が認められる場合に別訴提起を許すと二重処罰の危険性があるからである。
即ち、前述のとおり、現行法は二重処罰を禁止しており(338条3号、339条5号)、 1罪に対しては1回の刑罰権の発動しか許容していない。
ところが、1罪に対する2個以上の訴因がそれぞれ別個に審判されると二重処罰の危険性がある。つまり、 単一性が認められる場合に別訴を肯定すると、二重処罰の危険性があるのである。
そして、この危険性を回避する最も確実な方法は、最初から1罪に対しては2個以上の審判を認めないという方法である (単一性が認められる場合に訴因変更を肯定する必要性)。
また、単一性が認められ別訴が許されない場合に、当該手続における訴因変更を否定してしまうと、事実上、 検察官は一部起訴を行うことが困難になるのではないか(以下、 私見である)。
何故ならば、訴因変更が否定されるのであれば、刑罰権の必要十分な行使を責務とする検察官としては、 念のために全部起訴をせざるを得ないからである(一部起訴をしてしまうと、 公判中に訴因変更の必要性が生じても対応できず、残存部分に対する刑罰権の行使は不可能になってしまう)。
しかし、この結論は妥当ではない。何故ならば、現行法は起訴便宜主義(248条)を採用している以上、一部起訴も肯定していると考えられるからである。
従って、現行法を整合的に解釈しようとすれば、現行法は、単一性が認められ別訴が許されない場合には、 当該手続における訴因変更を肯定している、と考えるしかないと思われる(単一性が認められる場合に訴因変更を肯定する許容性)。
故に、単一性が認められる場合には、「公訴事実の同一性」が認められると考えられる。
尚、学説の中には、刑罰権の1個性だけを根拠に上記の問題に答える見解がある。しかし、公訴事実対象説を採用しない限り、 そのような論証は採り得ないものと考えられる(詳細は大澤裕 「公訴事実の同一性と単一性」法学教室270号59頁以下参照)。
■同一性
同一性の意義については学説上激しい対立がある。
が、判例によれば、同一性とは、現訴因と新訴因の犯罪を構成する基本的部分が社会通念上同一と認められること (基本的事実関係の同一)を言う。
また、何が基本的事実関係であるかについては、判例上必ずしも明言されていないが、一般に、 法益侵害ないし結果の同一性を重視していると考えられている。
そして、この同一性が認められる場合には、訴因を変更しても、被告人の防御に重大な不利益をもたらさないので、訴因変更を認めて良い (=「公訴事実の同一性」を肯定して良い) と伝統的に考えられている。
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コメント
なんというか・・・
公訴事実の同一性を刑罰権から主張することは、現在の通説的立場からもできるんですよね。
大澤の法学教室よんでもらったらわかるんですが、あれは理由かいてないし、ミスリーディングですよ。
投稿: | 2011年1月24日 (月) 03:02
コメント,ありがとうございます。
大澤先生の論文は昔,私も拝読しましたが,既に記憶があいまいです(笑)。誤導的な部分をご指摘いただけると,幸いです。
投稿: shoya | 2011年1月24日 (月) 07:59