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2006年7月 7日 (金)

【民法】 抵当権侵害・その1 ――抵当権設定者の損害賠償請求権に対する物上代位

今日は、質問を受けたので、抵当権侵害――特に、 抵当権設定者の損害賠償請求権に対する物上代位について

 

尚、抵当権侵害と言えば、抵当権に基づく妨害排除請求権の可否が有名だが、それについては、いずれまた別の投稿で。

 

ちなみに、抵当権に基づく妨害排除請求権については吉永一行先生のブログに有益な記事があるので、参照されたい。

 

 

 

■問題

Sは、自分がGに対して有する債務を担保するために、自己所有の建物について抵当権を設定した。

 

ところが、ある日、その建物は第三者Mによって放火され、建物の一部が消失してしまった。

 

この場合、G、およびSは、 Mに対してどのような請求をすることができるか?




S ―― M

 

 

 

■結論

請求し得るものとしては以下のものがある(但し、被担保債権の額や、 目的不動産の額、弁済期などの諸条件によってどの請求が為しうるかは上記の問題では決せられない。あくまで抽象的な理論上の結論である)。

 

1. Sは、Mに対して、 所有権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をすることができる。

 

2. Gは、Mに対して、 抵当権侵害を理由とする、固有の不法行為に基づく損害賠償請求をすることができる(大判昭和7年5月27日民集11巻1289頁。但し、 多数説は抵当権者の損害賠償請求権の成立を否定する

 

3. Gは、 SがMに対して有する所有権侵害を理由とする損害賠償請求権(709条) に物上代位することができる。

 

 

 

■説明

抵当権侵害については様々な論点・議論があるが、今日は、上記の3.で述べた、 「SのMに対する所有権侵害を理由とする損害賠償請求権に対するGの物上代位」について説明する。

 

ところで、この抵当権侵害の問題は、某W○○ナーの旧司法試験用の答練でも出題されたようである。

 

そして、そこで配布された優秀答案では、

 

上記2.のG固有の損害賠償請求権―― 抵当権侵害を理由とする損害賠償請求権――は被担保債権の弁済期到来後しか行使することはできないが、上記3. の「SのMに対する所有権侵害を理由とする損害賠償請求権に対するGの物上代位」については、 被担保債権の弁済期到来前でも行使できる

 

旨が書かれていたそうである。

 

 

しかし、これは民法の答案としてはともかく、 民事法の答案としては不正確である( 「間違い」と言って良いのではないかと思われる)。

 

確かに、民法の理論としては、被担保債権の弁済期前に物上代位を実現する必要性・許容性は認められる、と考えることはできる。

 

そもそも、抵当権は、目的物の交換価値を支配する権利である。

つまり、抵当権は目的物の個性に着目していないのである。

 

そのため、目的物が滅失しても、その交換価値が形を変えて存続している場合には、当然にその効力が及ぶと考えられている (抵当権の物上代位性)。

 

そして、本問においてSがMに対して有する所有権侵害を理由とする損害賠償請求権は、 所有権=抵当目的物の価値を侵害したが故に生じたものである。

 

また、この損害賠償請求権は抵当目的物の代替物であり、言わば、Gの抵当権が把握している価値の一部が変形したものである (その損害賠償請求権は被担保債権への充当が予定されている)。

 

従って、抵当権に基づく物上代位はSの損害賠償請求権についても及ぶと考えられ、かつ、 弁済期の到来を問わず物上代位できるはずである(但し、 異論は当然あり得る)。

 

 

しかし、これは現行法では実現できない。

 

何故ならば、民事執行法に、 この場合の物上代位についての特別の規定が置かれていないからである。

 

つまり、弁済期到来前に物上代位を実行しようとしても、現行法上、その手続は最終的に,弁済期到来後しか許容されないのである。

 

そのため、結局、Gの物上代位は被担保債権の弁済期到来後しか十分に実行できないのである。

 

勿論、解釈を加えることによって実行可能と解する余地はあるであろうし、そもそも民法の答案で、 民事執行法をどれだけ考慮しなければならないのかは一概には言えない。

 

ただ、参考答案として配布するなら、その当たりの説明はあった方が良いかもしれませんね(笑) > 某W○○ナーさん。

 

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コメント

はじめまして、K といいます。 「学ぶとは誠実を胸に刻むこと」を噛み砕いてお話していただけないでしょうか。できましたら、宜しくお願いいたします。

投稿: K | 2006年7月 7日 (金) 23:53

Kさん、はじめまして。

噛み砕いてお話すると言うのは、「学ぶとは誠実を胸に刻むこと」という言葉(ルイ・アラゴンの言葉ですが)の意味をお話するということでしょうか?

■ルイ・アラゴン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%B4%E3%83%B3

それとも、本ブログの投稿内容をもっと噛み砕いてお話するということでしょうか?

後者でしたら、以後、切磋琢磨したいと思いますが、前者ですと、門外漢ですので、お役には立てないかもしれません(v_v;)。申し訳ないです。

投稿: shoya | 2006年7月 8日 (土) 16:24

親族・相続の基本書について紹介していただいた者です。
民事執行・保全法について、民事執行・保全法概説等の本を一応読んだのですが、本件記事のような民法と民事執行法(抵当権などの問題でしょうか)、またその他に民事訴訟法と民事執行・保全法(判決の効力や訴訟承継についての問題でしょうか)のまたがる事例問題が、手続や全体の流れがわかっていないのが原因か、苦手です。
民事執行・保全法について、事例やケースを使用して解説されている本は、ありますでしょうか。
失礼します。

投稿: k | 2006年7月13日 (木) 23:39

Kさん、こんにちは。

お尋ねの民事執行法・保全法についてですが、寡聞にして事例やケースを用いた信頼できる基本書を私は存じ上げません。

申し訳ありません。

ただ、ひょっとすると、早稲田の鎌田先生などが執筆されている『民事法II』が、ご要望に沿うかもしれません。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4535513341/249-6789931-6153111?v=glance&n=465392

投稿: shoya | 2006年7月15日 (土) 12:47

ん? リンクがうまく表示されていないですね。

Amazonやgoogleで「鎌田薫 民事法」をキーワードにして検索なされば、見つかると思います。

投稿: shoya | 2006年7月15日 (土) 12:50

shoyaさん、ありがとうございます。
早速読んでみようと思います。

投稿: k | 2006年7月15日 (土) 15:21

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