【刑訴】 訴因変更についての覚書・その1
今日は、訴因変更について、一言。
と言っても、訴因変更論は巨大な論点なので、あくまでその一部分について。
■条文
312条1項
裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、
撤回又は変更を許さなければならない。
■説明
現行法では312条が訴因変更について規定している。
そして、同条によれば、起訴状記載の訴因と公訴事実の同一性を欠く犯罪事実については、 当該訴訟手続内で同時に取り扱うことはできない。
したがって、検察官がそのような「公訴事実の同一性」 を欠く事実について刑罰権を実現しようと考えるのであれば別訴を提起する必要がある。
他方、起訴状記載の訴因との間に公訴事実の同一性が認められる犯罪事実については、別訴に拠ることはできず、 訴因変更で対処しなければならないと一般に考えられている。
何故ならば、現行法が二重起訴の禁止(338条3号、 339条5号)、および一事不再理の原則(337条1号。 憲法39条後段)を採用していること――加えて被告人の現実的負担の大きさ――からすると、法は、1個の罪は1回の手続で審理すべしと要請していると考えられるからである。
このように、現行法上、訴因変更が可能か否かは、訴因変更の許否の問題を度外視すれば、一応この「公訴事実の同一性」 の有無によって決せられることになる。
では、この「公訴事実の同一性」とは何なのか?
■伝統的通説
この問題について、伝統的通説は「公訴事実の同一性」を「単一性」と「狭義の同一性」(以下、「同一性」と記す)とに分け、そのどちらか一方が認められれば、「公訴事実の同一性」 は認められる、とする
つまり、伝統的通説によれば「単一性」と「同一性」は「または」の関係にあるのである(田宮裕 『刑事訴訟法〔新版〕』〔有斐閣、1996年〕204頁注3など参照)。
従って、田口守一 『刑事訴訟法〔第4版〕』(弘文堂、平成17年) 322頁の
「公訴事実が同一である場合とは、公訴事実が単一でありかつ同一である場合とされている(通説判例)」
という記述はかなり特殊であり、田口説の当否はともかく、 通説の説明としてはミスリーディングと言っても過言ではない(この旨を正確に指摘しているブログとして受験生magicfluteの「完全燃焼主義!」 がある)。
では、何故、「単一性」または「同一性」 が認められれば、「公訴事実の同一性」ありとして訴因変更を認めて良いのか?
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