【民法】 履行補助者責任と報償責任・危険責任原理について・その1
今日は、履行補助者責任と報償責任・危険責任原理について一言(ただ、自分の中でまだ整理・理解ができていない部分もありますので、ご高批をお待ちしております)
■定義
いつもどおり、まず、定義から説明する(尚、 勉強や議論をする際には定義を固定することが重要であることについては、葉玉先生の記事を参照) 。
履行補助者責任とは、 履行補助者の行為によって債務不履行が生じた場合に、 債務者が自己の行為により債務に不履行が生じた場合と同様に負わされる損害賠償責任のことを言う。
尚、履行補助者とは「債務者が債務の履行のために使用する者」を言う(奥田昌道『債権総論〔増補版〕』〔悠々社、1992年〕126頁)。
報償責任原理とは、 「責任主体が問題の活動から利益を獲得している」という点に基づいて「権利侵害の結果を責任主体に結びつけるのを正当化する」原理を言う (潮見佳男『不法行為法』〔信山社、2002年〕141頁)。
端的に、「利益の存するところに損失も帰するべきという原理」 と表現されることもある。
また、使用者責任(715条)の根拠として説明される場合は、報償責任原理は 「使用者が自己の業務のために被用者を用いることによって事業活動上の利益を挙げている以上、 この者による事業活動の危険も負担すべきである」という原理を意味する、と説明される(潮見佳男 『不法行為法』〔信山社、2002年〕353頁)。
危険責任原理とは、「責任主体が危険源を社会生活に持ち込み (危険源の創設)、支配、管理している」という点に基づいて 「権利侵害の結果を責任主体に結びつけるのを正当化する」原理を言う(潮見佳男『不法行為法』〔信山社、 2002年〕141頁)。
換言すれば、「社会生活に危険をつくりだした者は、その危険の実現について責任を負わしめられるべき」という原理を言う (加藤一郎編『注釈民法(19) 債権(10)』〔有斐閣、昭和40年〕268頁〔森島昭夫〕 )。
■よくある答案例
履行補助者に関する問題についての答案を見ていると、次のような記述に出会うことがある。
「債務者Sは本件履行補助者Dを用いることによって利益を得ている以上、信義則に照らせば、 本件履行補助者Dの過失は債務者Sの過失と同視できる。よって、債務者Sは債務不履行責任を負う」。
確かに、この記述は答案例としては通常、間違いとは評価されない。むしろ、正解かもしれない。
何故ならば、伝統的見解は、大要、このような構成を採用しているからである。
つまり、伝統的見解は、債務者が履行補助者の故意・ 過失行為を理由とする債務不履行責任を負担しなければならない根拠として、報償責任や危険責任を採用しているのである。
しかし、これらの記述は正確ではあるまい。
少なくとも、この記述に表れているような伝統的見解に対しては近時、有力な批判が主張されているのである。
そして、このような批判によれば、伝統的見解の問題点の1つは、 「危険責任ならびに報償責任の原理で基礎づけたはずの履行補助者の故意・過失による損害賠償責任を、過失責任原則と矛盾なく説明するために、 再び過失責任の考え方に取り込む操作を行った」という点にある(潮見佳男『債権総論〔第2版〕 I』〔信山社、2003年〕287頁以下)。
つづく
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