【商法】 商法504条について
今日のテーマは、商法504条(商事代理)というややマイナーな話について。
■民法と商法の条文
民法99条1項 【代理行為の要件及び効果】
代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
民法100条 【本人のためにすることを示さない意思表示】
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第1項の規定を準用する。
商法504条 【商行為の代理】
商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は、本人に対してその効力を生ずる。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げない。
■商法504条は民法何条の特則?
上記の条文を御覧頂ければ分かるように、商法504条は民法の原則を修正する条文である。
即ち、民法の原則によれば代理行為が有効に成立するためには顕名が必要であるところ、商法504条本文によれば顕名が無い場合であっても「その行為は、本人に対してその効力を生ずる」のである。
これを本人A、代理人B、相手方Cとして説明すると以下のようになる。
本人A
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代理人B ―― 相手方C
民法99条1項
顕名があれば → 本人Aに対して効力が生じる。
民法100条
顕名が無ければ → 代理人Bに対して効力が生じる。
商法504条本文
顕名が無くても → 本人Aに対して効力が生じる。
さて、ここで問題である。
商法504条は民法99条1項、100条のいずれの特則なのであろうか?
■非顕名主義説(民法99条1項の例外説)
素直に考えれば、商法504条は民法99条1項の特則である。
即ち、民法によれば、顕名が無ければ本人Aに対して効力は生じないはずであるところ、商法はそれを修正し、顕名が無い場合であっても本人に対して効力が生ずるようにしたのだ、という考え方である。
そして、判例・伝統的通説はこの見解を採用する。
■立証責任転換説(民法100条の例外説)
これに対し、学説では少数ながら民法100条の例外である、と主張する見解が存在する。
この見解は、まず、判例・伝統的通説が採用する非顕名主義説は理論的におかしいと批判する。
即ち、顕名は代理行為の本質なのであって、顕名を欠く代理行為というものは観念することができないはずだ、とこの見解は主張するのである。
そして、このように考えるのであれば、商法504条を民法99条1項の例外と考えることはできない。
では、商法504条は民法何条の例外なのか?
この見解は、商法504条は、民法100条の立証責任を転換したという意味で民法100条の例外だ、と説明する。
民法100条
即ち、民法100条によれば、顕名無き場合、その行為は代理人Bの行為になってしまう。
そして、顕名が無かった以上、相手方Cは、代理人Bを当事者と考えて行動していた訳であって、相手方Cとしてはこれで問題は無い。
しかし、困るのは本人Aである。
代理行為をしてもらうために、わざわざ代理人Bに代理権を授権したにも拘わらず、それを代理人Bの行為とされては堪らない。
従って、本人Aとしては「相手方Cが、代理人Bが本人Aのためにすることを知り、又は知ることができたこと」、つまり民法100条但書の要件事実を主張・立証しなければならない。
例外事項(但書)の主張・立証責任は本人Aにあるのである。
商法504条
他方、商法504条によれば、顕名が無い場合であっても、その行為は本人Aの行為になってしまう。
しかし、これでは、顕名が無い以上代理人Bが当事者であると思っていた相手方Cに不測の損害を与えることになってしまう。
そのため、相手方Cとしては「相手方Cが、代理人Bが本人Aのためにすることを知らなかったこと」、つまり、商法504条但書の要件事実を主張・立証しなければならない。
例外事項(但書)の主張・立証責任は相手方Cにあるのである。
このように、商法504条では、例外事項(但書)の主張・立証責任が、本人Aから相手方Cに移っている。
立証責任転換説は、この点をもって、商法504条は民法100条の例外である、と主張するのである。
但し、上記の非顕名主義説にも、立証責任転換説にも批判があり、最近では江頭先生などによって別の見解も主張されている。
また、商法504条については、その法的効果に関しても争いがあるが、それは、また別稿で(?)。
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