【余談】 我妻栄先生の勉強の仕方
以前、「ノートのとり方等について」という記事を投稿しましたが、我妻先生の『全訂第一版 民法案内 1(私法の道しるべ)』(一粒社、1991年)に収録されている「私の試験勉強」を読み返していたところ、ノートや勉強の仕方についての記載がありましたので――参考になるかどうかは分かりませんが――、ご紹介致します。
ノートのとり方については、今では妥当しない方法かもしれませんが、勉強方法については、今でも十分に妥当し得るものだと思います。
Wikipedia : 我妻栄
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%91%E5%A6%BB%E6%A0%84
■ノートについて
「当時の勉強の仕方は、ノートを理解して覚えこむことが第一。試験に六法全書の参照を許すというのは後のこと。そこで、勉強するときには、サブノートというものを作った。ノートから要点を書き抜いたもうひとつのノートを作るわけである。参考書を読んだときは、サブノートのなかに書きこんでおく。試験の前日にはサブノートさえ読めばよい。このやり方は、当時の秀才の一般的なやり方だったらしい。サブノート用の碁盤ケイのケイ紙を売っていたものである」(前掲書240頁)。
「それから、サブノートの話だが、二年三年と進んでからは、すべての講義について同じように詳しいサブノートを作ったのではない。ノートの左側の白紙のところや教科書の欄外のところに、詳細な見出しをつけ、分類し綜合する書き込みをつけただけのものもあった。参考書も、すべてにわたった読んだのではない」(前掲書・241頁)
但し、先生は次のように注意されています。
「私は、ここでサブノート式の勉強方法を力説したからといって、今日の諸君に、そのままそれをすすめようとするのではない。時勢は移る。二度とかえってこない青春の日に、なすべきことはほかにもあろう。ただしかし、諸君が大学で法律学を学ぼうと決心した以上、在学中というやはり二度とかえがたい機会に、徹底的に法律を理解することにも、それだけの値打ちはあるのではなかろうか。朝から晩まで、法律で日を送れというのではない。諸君の毎日の生活プランのなかに法律の勉強も入れよ、そしてその勉強はこんな覚悟でやれ、というだけである」(前掲書・244頁)
■勉強方法について
「私は、入学試験勉強としては、中学の三年からの教科書を全部極めて詳細・正確に復習することをその中心とした。受験のための参考書は、その自分にも、むろん沢山あったが、私はほとんど見なかった。狭く深く、徹底的に理解する。これが私の一生を通じての勉強方針といってもよいかもしれない」(前掲書・237頁。ちなみに、我妻先生は一高首席入学・首席卒業)
「私の勉強のやりかたは、前にもいったように、徹底的に理解することである。私が牧野先生の刑法の教科書を十何回読んだという伝説があるそうだが、非常な間違いである。全体を通じて10回も読むようなやり方は決してしない。わからないところは、二、三頁に、一日も二日も考えることはある。そこをわからすために先生の他の論文を読むこともある。そして、わからないうちは、先に進まない。わかったうえで、サブノートを作る。そういうやり方でおわりまで一度読めば、あとはサブノートを主にしてせいぜい二度も繰りかえせば十分である」(前掲書・246頁以下)
ちなみに、本書は、我妻先生が東大教授の定年退官を間近に控えた時期に書かれたもので、言わば大家による「円熟の書」です。
そして、内容も、当然のことですが、非常に優れており、法律学を学ぶ者であれば知っておくべき学習の基本姿勢などが丁寧に、かつ、平易な言葉で記されています。
我妻先生は学問的に優れていただけでなく、人格的にも立派な方だったそうですが(お弟子さんの質・量ともに東大法学部最大の先生だと思います)、本書の文章からも、その人間的な温かみを感じとることができます。
参考までに、本書の目次のうち、皆さんのご関心を惹きそうなものをご紹介すれば、以下のとおりです。
【目次抜粋】
第1章 私法の学び方
第1 法律を学ぶには、暗記しないで、理解しなければならない
第2 講義には必ず出席すること
第4 条文の取り扱い方について
第5章 私法の解釈
第1 私法解釈の技術
第2 類推解釈と反対解釈の使い分け
附録 私の試験勉強
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