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2006年8月21日 (月)

【民法】 「何故?」という意識 ――債権譲渡と同時履行の抗弁権を題材として

今日は、質問を受けたので、債権譲渡と同時履行の抗弁権を題材にして一言


質問内容は次のようなものであった。


即ち、同時履行の抗弁権については「債権が譲渡され、または引き受けられた場合も、債務の同一性は失われず、抗弁権は存続する」と説明されるが、468条2項がある以上、このような説明を敢えてする必要はないのではないか? 何故、このような説明がわざわざ為されているのか?という質問である。


468条2項 【指名債権の譲渡における債務者の抗弁】
譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。


結論から言うと、上記のような説明は必要と考えられる。


何故ならば、「債権が譲渡され、または引き受けられた場合も、債務の同一性は失われず、抗弁権は存続する」という命題は、468条2項の基礎にある考え方であって、この考え方を放棄すると、468条2項の説明が困難になるのではないかと考えられるからである(勿論、468条2項について別の説明が可能であれば、上記命題を放棄しても構わないかもしれないが)。


ところで。


いつぞやの投稿でも述べたが、法律学を勉強するに当たっては「何故」という意識を持つことが肝要だと考えられる。


つまり、「この学説を採用すると何故、このような結論になるのか」、「何故、この制度はこのような設計になっているのか」、「何故、この点については争いが無いのか」などと考える姿勢が重要だと思われるのである。


何故ならば、このような「何故」の意識を持つと、判例・学説について突き詰めて考えるため、その論理を正確に原理レベルまで遡って考えることができるからである。


そして、原理レベルまで遡って考えることができる人は、通常、応用問題や未知の問題にも対応することができる。
何故ならば、ほとんどの法律問題は原理レベルの要素の組み合わせだからである。


複雑な料理の味付けであっても、その大枠は、基本的な調味料で構成されている。それと同じである。
基本的な調味料の使い方をマスターしている人は、特殊な料理にも対応することができる。


同様に、基本原理を正確に理解・記憶している人は、応用的な問題にも対応することができる。


従って、法律を勉強するに際しては上記の質問者のように、「何故」という意識を持つことが重要である。
卑近な言い方をすれば、「何故」の意識を普段から有していれば、自然と試験の点数も伸びるはずである。


尚、この「原理レベル」という言葉は、やや語弊がある言い方をすれば「基礎レベル」という言葉に置き換えることもできる(「基礎」という言葉を用いると「応用」や「発展」に劣位するものと考えられがちだが)。

イチロー選手や中田選手などのように一流のプレーヤーは「基礎」をしっかりと修得していると聞く。

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