【民法】 94条2項類推適用について若干の補足・その2
今回も、前回と同じく、94条2項類推適用について若干の補足。
■前回の復習
前回述べたように、また、周知のとおり、最高裁は、いわゆる意思外形非対応型において、94条2項類推適用+110条の法意という構成を採用している。
だが、実際の最高裁の事案の解決の結果はともかく、この構成については有力な批判がある。
そもそも、前回述べたように、94条2項類推適用+110条の「法意」型という構成が持ち出された理由の1つは、94条2項単独類推適用型では帰責性の点で対処し切れない事案が登場したからであった。
例えば、「AがBへの売買予約を仮装して甲土地につきBの所有権移転請求権保全の仮登記手続をしたところ、BがAに無断で売買を原因とするBへの所有権移転登記手続をし、ついでCに甲土地を譲渡した」事案である(佐久間毅「民法94条2項および民法110条の類推適用による不動産登記名義に対する正当な信頼の保護」NBL834号20頁〔2006年〕)。
A
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B ―― C
■110条の「法意」を加えれば類推の基礎は認められるのか?
繰り返しになるが、この事案の場合、Aは第三者Cが信頼した外形を「承認」しておらず、それ故に、Aに94条2項だけを類推する帰責性は認められない。
そこで、この事案を処理するための構成として最高裁が採用したのが、94条2項類推適用+110条の「法意」という構成であった。
しかし。
110条の「法意」が持ち出されたところで、Aに94条2項だけを類推するほどの帰責性が存在しないという事情に変わりは無い。
110条の「法意」が持ち出されたことによって変わったのは、Cに無過失が要求されるということだけである。
それなのに、何故、AはCに対してAB間の登記が不実のものであることを対抗できなくなってしまうのか?
110条の「法意」が持ち出されようと何であろうと、Aの帰責性が高くないという事実に変わりは無いのである。
確かに、「『無過失』を要求することにより、理論上、それだけ第三者の保護される範囲がせばまり、結果として、権利者の救済される範囲が拡大することになる。その意味では、民法94条2項類推法理により解決される場合と比較して……利益衡量のバランスは一応とれていると思える」。
しかし、「そもそも、『無過失』からのアプローチは、第三者がいかに外観を信頼すべきかという方向からのもので、権利外観の強弱などの要因とのみかかわるものであり、ここで問題となっている、第三者の信頼した外観に対して真の権利者が責任を問われるべきかどうかとは直接のかかわりはない。その意味で帰責性の弱点を第三者の無過失のみでカバーしようとする発想は筋違いのものといわざるをえない」のである(以上につき、安永正昭「民法における信頼保護の制度とその法律構成について(二)」神戸法学雑誌28巻2号164頁以下〔昭和53年〕)。
従って、ここで必要なのは、真の権利者の帰責性を肯定しうる要件(要素)である。
そして、学説では、この真の権利者の帰責性を肯定しうる要件として、真の権利者の作出した外形と第三者の信頼した外形との間の何らかの適当な関連性などが挙げられている(安永・前掲165頁、佐久間・前掲20頁など)。
では、翻って考えるに、そもそも、94条2項類推適用における「帰責性」とは何なのか?
つづく
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コメント
>>Aは第三者Cが信頼した外形を「承認」しておらず、それ故に、Aに94条2項だけを類推する帰責性は認められない。
>>第三者の信頼した外観に対して真の権利者が責任を問われるべきかどうかとは直接のかかわりはない。その意味で帰責性の弱点を第三者の無過失のみでカバーしようとする発想は筋違いのものといわざるをえない
いつもお世話になっております。先日、この記事のURLをツィッター上で張っていただいた時に、さほど疑問を持たずにさ~っと理解できたつもりになっていたのですが、
明日の授業でやるこの部分を予習するにあたり、先生の記事を拝見させていただき、ますます理解が深まったと同時にさらなる疑問が自分の中で浮かんできました。
その疑問点とは上に抜きださせていただいた部分なのですが、
本人に帰責性が認められなかった場合に、じゃどうしようかとなって、110条の法理をもってきた、ここまでは理解できました。
ただ問題はここからで(私の疑問の中身です)
110条を持ち出してきたのは、代理人の行為を権限内の行為と信じ、かつ信じることについて正当な理由の有無を判断するため
という、理解でよろしいでしょうか。
判例は、
外観尊重、取引保護の要請から
94条だけでは、本人の帰責性がみとめられない本問事例で、
なんとかして、真の権利者を保護してやらなくては、
という判断より、
110条(ちょっと無理な論理)をもってきたのかなぁと感じました。
そして、ここでのキーポイントは
>>真の権利者の帰責性を肯定しうる要件(要素)である。
この部分なのかなぁと思いました(本来的な意味で。言い換えると、94条が直接使われる場合には。110条はあくまでも、代理権があると信頼した相手方保護のための規定なので、真の権利者の帰責性はあまり問題ないのかな)。
(この範囲が初学者ばりによわくて、何書いているのか、自分でもまったく先生に理解されていないだろうと思いながら、書き込みさせていただきました。失礼しました。)
投稿: ひなこ | 2010年4月25日 (日) 15:13
ひなこさん,コメントありがとうございます。
判例が110条の法意を持ち出した理由は,端的に申し上げれば,保護される第三者の範囲を限定することによって妥当な結論を導くため,です。
ですから,
>>110条を持ち出してきたのは、代理人の行為を権限内の
>>行為と信じ、かつ信じることについて正当な理由の有無を
>>判断するため
>>という、理解でよろしいでしょうか。
上記の理由付けとは若干異なるのかな,と思います(上記設例では代理人は登場しませんしね(^^;))。
判例は勿論,110条の法意を用いる構成が「筋違い」(by安永先生)であることは理解していると思われます。
ただ,110条の法意を用いる構成は妥当な結論を導きやすいため,裁判所としては使い勝手が良いものだと思われます。また,現在では,この構成は判例法理と言って差し支えありません。
ですから,110条の法意構成には代理権濫用の93条但書類推構成と同様に論理的問題点はあるものの,裁判所はその点に目を瞑っているのだと思われます。
投稿: shoya | 2010年4月25日 (日) 22:03
端的なご説明ありがとうございます。なにぶん、不勉強で、すみません。
投稿: ひなこ | 2010年4月25日 (日) 22:46