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2006年8月26日 (土)

【刑訴】 伝聞排除法則の基礎・その1

今日は、伝聞排除法則の基礎知識について

 

■定義

伝聞法則(伝聞排除法則 とは、 伝聞証拠の証拠能力を認めないという原則を言う(320条1項)。

 

伝聞証拠とは、 「反対尋問を経ていない供述証拠」(平野龍一 『刑事訴訟法概説』〔東京大学出版会、1968年〕161頁)、または、 「公判期日における供述に代わる書面および公判期日外における他の者の供述を内容とする供述で、 原供述内容をなす事実の真実性の証明に用いられるもの」(鈴木茂嗣『刑事訴訟法〔改訂版〕』〔青林書院、1990年〕 202頁)を言う。

 

尚、平野先生の定義については批判がある

例えば、主尋問終了後・反対尋問前に死亡した証人の証言は、条文の文言上、320条で排除される伝聞証拠とは言えない (大澤裕「伝聞証拠の意義」松尾浩也=井上正仁編『刑事訴訟法の争点 [第3版]』182頁参照)。

 

■伝聞法則の根拠

このように伝聞証拠の証拠能力が否定される根拠は反対尋問権の保障にあると考えられている。

 

即ち、一般に、人がある出来事について供述する場合、その記述は、知覚・記憶・真摯性・叙述というプロセスを経て為される。

 

          ┌―→ Aの意識 ――┐

真摯性・叙述  |              | 知覚・記憶

          |              ↓

        Aの供述          出来事

 

従って、ある供述からその内容たる出来事を正しく推認する為には、このプロセスに誤りがないことが必要であり、現行法は、 このプロセスのチェックする手段として反対尋問権を用意している(規則199条の4第1項)。

 

ところが、伝聞証拠においては、このプロセスのチェックが為されていない。

例えば、Aが公判廷で「『Yが窃盗をしている現場を見た』とXが言っていた」と供述したとする (Xは出廷していないとする

 

  ┌→ Aの意識 ―┐ ┌→ Xの意識 ―┐

  |           | |           |

  |           ↓ |           ↓

Aの供述       Xの供述        Yの窃盗

 

この場合、Aが出廷していれば、左側のAのプロセス(供述三角形と呼ばれることがある) にはチェックが及ぶが、出廷していないXのプロセス(右側の供述三角形) には裁判所のチェックが及ばない。

 

従って、右側の供述三角形が最終的に示している事実、即ち、 Yの窃盗行為を立証事項としてAの供述を用いる場合には証拠能力が否定されるのである。

 

尚、上記のプロセスは、一般に知覚・記憶・ 「表現」 ・ 叙述と説明されることが多い。

 

しかし、日本語として、「表現」という単語と「叙述」という単語は区別し難い。

例えば、三省堂の『大辞林 第2版』によると……

 

【表現】 内面的・精神的・主体的な思想や感情などを、外面的・ 客観的な形あるものとして表すこと

【叙述】 物事を順を追って述べること

 

……と説明されている。つまり、「叙述」という単語には「述べる」という点で表現の要素が含まれているため、 語感として表現と叙述を峻別することは難しいのではないかと思われるのである。

 

そもそも、伝聞法則のプロセスに言う「表現」という要素は、 供述者が真摯に叙述をしているかを判断するための要素である。

 

例えば、「XがYをバラした」 とAが供述したとしよう。

 

このとき、

 

「『バラした』とは『殺した』という意味か?」

 

ということを検討する要素が叙述であり、

 

「AはXに対して個人的な恨みなどを抱いていないか?」

 

ということを検討する要素が真摯性 (表現 なのである。

 

とすれば、「表現」という用語よりも「真摯性」という用語の方が分かりやすいのではないか、と考えられる(ちなみに、「真摯性」は学生が答案で用いて良い言葉である)。

 

つづく

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コメント

個人的には、伝聞証拠の定義は鈴木説が適切ではないかと思っています。鈴木説の方が320条の文言に忠実ですし、定義の内容もより具体的で、伝聞と非伝聞を区別するための指標をよりよく示していると考えるからです。田口先生は平野説に立脚しているようですが、是非鈴木説との比較検討もしてもらいたいと思います。

ちなみに、田口先生の教科書では、いまだに公訴事実の同一性が「公訴事実が単一であり『かつ』同一である場合・・・(通説判例)」とされていますが(第4版322頁)、田口先生はこの説明を改められる気はないのでしょうか。。。。少なくとも実務や判例は、公訴事実が単一であれば、直ちに公訴事実の同一性を認めるはずですので、「公訴事実が単一であり『かつ』同一である場合」にのみ公訴事実の同一性を認めるかのようにみえる田口先生のご説明は、誤りではないかと思います。

投稿: 春夏秋冬 | 2006年8月27日 (日) 16:36

>春夏秋冬さん

コメントありがとうございます。

私も、定義は、鈴木先生の方が無難だと思います。
ただ、平野先生の定義は、伝聞法則の機能を端的に表していますので、その意味では優れた定義だと思います。

また、仰るとおり、田口先生は独自の見解を採用されています。
予備校の中には無批判に田口説を採用しているところもあるようですので注意が必要でしょうね。

■関連する拙稿
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_cc2c.html
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_9486.html
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/post_27c7.html

投稿: shoya | 2006年8月28日 (月) 16:13

あ。。。。。過去の記事に、この件についてのコメントがあったんですね。失礼しましたm(_ _)m

田口先生のご著書は受験界に対して非常に大きな影響力を有していますので、こういったミスリーディングな説明は一刻も早く改めていただきたいのですが、なかなか変わりませんね(^_^;)。田口先生のお耳にも、何らかの形で入っているはずだとは思うんですけど。。。

訴因変更については、以前から納得のいく説明をしてくれる文献が見つからず、フラストレーションのたまっていたところです。syoyaさんの記事も参考にさせていただきたいと思います。

投稿: 春夏秋冬 | 2006年8月28日 (月) 16:50

供述三角形というのがあるんですね。初めて知りましたが、とても理解しやすかったです。勉強になりました。

つづく、とあるので、続きが気になります^^;
お時間ありましたらぜひ続きをお願いします。

投稿: K | 2008年10月18日 (土) 05:51

Kさん、コメントありがとうございます。

拙稿がお役に立てたのであれば光栄です。

確かに、「つづく」とあるのに続きがありませんね……(^^;)。

実は、最近は質問を拝受することが少なく、なかなか記事を書く契機が生まれておりません(私が以前より忙しくなったということもあるのですが)。

どうぞ、期待せずにお待ちいただければ幸いです(笑)。

投稿: shoya | 2008年10月19日 (日) 18:53

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