【民法】 権限を踰越した代理行為と一部無効
今日は、質問を受けたので権限踰越した代理行為と一部無効について、簡単に一言 (一部無効は大きな論点なので……)。
■質問内容
本人から与えられた基本代理権を踰越して法律行為が為された場合――例えば、 100万円の消費貸借契約を締結する代理権を与えられたのに110万円の消費貸借契約を締結した場合――、 その法律行為は全部が無効になるのか?
それとも、その一部、つまり10万円の部分だけが無効になるのか?
■定義
無効とは、 「事実としてはおこなわれた法律行為を、法律上は、はじめから存在しなかったものとして扱うこと」を言う (佐久間毅『民法の基礎1 総則〔第2版〕』〔有斐閣、 2005年〕209頁)。
法律行為とは、 「意思表示を不可欠の構成要素とし、原則としてその内容どおりの効果が認められる行為」を言う(山本敬三『民法講義 I 総則〔第2版〕』〔有斐閣、2005年〕 94頁)。
具体的には、単独行為、契約、合同行為を意味する。
特に重要なのは契約である。
ここに、契約とは「両当事者の意思表示、 つまり申込みと承諾が合致することによって成立する法律行為」(前掲・ 山本94頁)を言う。
■説明
上記質問の設例に対する結論から言えば、通常は、 10万円の部分だけが無効になるものと考えられる。
但し、上記設例では、他の諸条件がどのように設定されているかについて全く説明が無いので、 場合によっては消費貸借契約全部が無効になる場合もあると考えられる。
以下、説明する。
まず、この問題の処理の仕方については、以下に述べる2つの問題を検討するというアプローチが採られている。
第1の問題は、 「ある契約条項の一部に無効原因がある場合に、その条項の一部が無効となるか、全部が無効となるか」 という問題である(前掲・山本283頁。 太字は引用者)。
第2の問題は、 「ある契約条項が無効となる場合に、その条項のみが無効となるか、契約全体が無効となるか」 という問題である(前掲・山本285頁。 太字は引用者)。
つまり、まず、問題となっている条項が一部無効か全部無効かを考える。
次に、その「条項」の一部無効、または全部無効が、契約全体に影響を及ぼすか否か――「契約」の一部が無効になるか全体が無効になるか―― を検討するのである(尚、明文がある場合は、当然、 その規定によることになる。本稿の議論は明文が無い場合を前提としている)。
そして、第1の契約「条項」の無効の問題については、 次のように考えられている。
即ち、「条項全体を無効にすることは、 無効原因のない部分については当事者の私的自治に基づく決定を覆すこと、すなわち、 契約自由への介入を意味する。そのため、この介入を正当化する理由があるかどうかによって、判断される」 (前掲・佐久間211頁。 太字は引用者)。
第2の契約「全体」の無効の問題については、 次のように考えられている。
即ち、 「全体を無効にしなければ一部を無効にした意味がなくなると考えられる場合には、全部無効となる」。
他方、「そうでない場合には、できる限り全部無効とすることを避け、 無効部分を慣習、任意規定、条理などで補充して、法律行為の効力を維持するべきだと考えられている」。
何故ならば、「法律行為をした当事者は、通常、 その存続を望んでいると考えられるからである」。
但し、「無効部分を除いた部分や補充した後の法律行為では、 当事者が法律行為をした目的を達成することができず、法律行為を強制することが当事者の意思に全く反すると考えられるときには、 その法律行為は全部無効であるとせざるをえない」(以上につき、前掲・佐久間212頁)
以上の論理を冒頭に述べた質問内容の事例――100万円の消費貸借締結の代理権を授与したところ、 110万円の消費貸借契約が締結されたという事例――に当てはめると次のようになるのではないかと考えられる。
まず、契約「条項」について検討すると、 金額以外の条項は問題にされていないようなので、金額以外の条項については当事者の意思が合致していたと考えられる。
そして、110万円という金額のうち、100万円については当事者の意思は合致していたのである(本人も100万円については代理権を授与していたし、 相手方も100万円については同意していた)。
つまり、佐久間先生が仰られるように、110万円という金額部分を全部無効にすると、 100万円という無効原因のない部分についての介入を意味する。
そのため、全部無効か否かは、この介入を正当化する理由があるかどうかによって、判断される。
これを検討すると、恐らく、正当化理由は存在しないだろう。
従って、無効部分は10万円に限られるものと考えられる。
次に、契約「全体」の無効について検討すると、本件では、 全体を無効にしなければ一部を無効にした意味がなくなるとは考えにくい。
また、踰越額の少なさに鑑みると、端的に10万円の踰越部分を無効にすれば、紛争の処理として足りると考えられる。
よって、通常は、10万円の部分だけが無効になるものと考えられる。
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