【民法】 信頼利益 ――瑕疵担保責任の法定責任説と関連して
今日は、信頼利益について、簡単に一言。
■定義
信頼利益とは、 契約が有効であると信じたことによって債権者が蒙った損害のことを言う。
■瑕疵担保責任の法定責任説
瑕疵担保責任の法定責任説とは、570条を特定物ドグマ、または原始的不能ドグマによって基礎づける見解で、売買契約では「この物」 を給付する義務しか契約内容にしかならず、かつ、570条は特定物売買にのみ適用される規定である、とする見解である。
■検討
上記の説明から分かるように、法定責任説に立つ場合、「この物」を給付する義務しか契約内容にならない。
換言すれば、「無瑕疵物」を給付する義務は(最終的には)契約内容になっていないのである。
そして、信頼利益とは「契約が有効であると信じたことによって債権者が蒙った損害」である。
言うまでもないことだが、ここで問題となっている「信頼」は何でも良い訳ではない。
つまり、法的保護に値する信頼である必要があり、例えば、 契約内容になっていない事項について信頼を有していたとしてもそれは法的保護に値しない。
何故ならば、契約内容になっていないということは、契約法によって保護されていないということを原則として意味するからである。
従って、瑕疵担保責任において法定責任説に立つ場合、「無瑕疵物」の給付義務は契約内容になっていない以上、「無瑕疵物」 の給付に対する信頼は法的保護に値しないと考えられる。
よって、瑕疵物の修補費用――瑕疵物を無瑕疵物へと改善するために買主が蒙った費用――は、信頼利益、即ち、 「契約が有効であると信じたことによって債権者が蒙った損害」に含まれないはずである。
もし、そのような費用をも信頼利益に含めるのであれば、何かしら別の論理が必要であろう。
ちなみに、信頼利益に含まれる典型例は、目的物を購入するために使った調査費用、移動費などである。
■関連する拙稿
【民法】 瑕疵担保責任の基礎知識・その1
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_ab16.html
【民法】 瑕疵担保責任の基礎知識・その2 ――法的性質論
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_7f29.html
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