【民法】 弁済の提供
今日は、質問を受けたので、弁済の提供について、一言。
■定義
弁済の提供とは、 「債権者の協力なしには債権債務が消滅しない場合に、弁済のために債務者としてなし得べきことの全てをなすこと」を言う (前田達明『口述 債権総論 第三版』〔成文堂、平成15年〕464頁)。
尚、広義の弁済の提供とは、「債務者がおこなう具体的な提供行為」 を言う(潮見佳男『債権総論〔第3版〕 II 』〔信山社、2005年〕187頁)。
■説明
※以下の説明は、基本的には前掲・ 潮見187頁以下の記述を基にしている。
実は、弁済の提供の効力には2つの側面がある。
即ち、「攻撃的効力」と「防御的効力」である(潮見先生の命名による)。
1.攻撃的効力
相手方の同時履行の抗弁権を奪い、相手方を履行遅滞に陥れるために、 自己の債務についてできるだけのことをするという場面における効力である。
2.防御的効力
債務不履行責任を負わないために、債権者の協力なしに債務者としてできるだけのことをするという場面における効力である (492条、493条はこの効力について規定している)。 こちらが弁済の提供の基本的効力である。
■攻撃的効力について
攻撃的効力の場面における「弁済の提供」は、あまり厳格に考えるべきではない。
何故ならば、この場面においては、被提供者は自己の債務の履行を怠っている者である以上、「弁済の提供」 を厳格に解さねばならないとすると、不誠実な債務者に口実を与えることになってしまうからである。
特に、判例によれば、 給付を受領することを拒絶する意思が明確な場合 (大判大正10年11月9日民録27輯1907頁)、 自己の債務を履行しない意思を明確にした場合 (最判昭和41年3月22日民集20巻3号468頁)には、攻撃的効力としての弁済の提供は不要とされていることに注意が必要である。
■防御的効力について
493条に言う「弁済の提供」とは、「債務の本旨」に従った現実の提供(もしくは口頭の提供)を言う。
よって、防御的効力発生の為の要件は、1.「債務の本旨」に従っていること、2. 現実の提供(もしくは口頭の提供) をすること、である。
そして、弁済の提供の基本的効力である防御的効力の趣旨が、 遅滞責任からの解放という点にある以上、この意味における弁済の提供は、遅滞責任が生じ得るような状態になって初めて問題になる。
┏━現実の提供 ― 原則的には現実の提供が必要。
┃
┃
┣━口頭の提供 ― 以下の場合は、口頭の提供で足りる
┃ (493条但書)
┃
┃ 1.債権者が予め受領を拒んだ場合(まだ翻意可能性あり)
┃ 2.債務者の行為がなされる前にまず債権者の行為が必要な場合
┃
┃
┗━━口頭の提供すら不要な場合
― 以下の場合は、口頭の提供すら不要。
1.債権者が受領拒絶の意思を明確にしている場合
(翻意可能性無し)
2.債権者が受領遅滞に陥っている場合
■関連する拙稿
特定と弁済の提供・その1
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_48af.html
特定と弁済の提供・その2
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_f252.html
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