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2006年9月 1日 (金)

【会社法】 株券発行前の株式譲渡について・その1

今日は、株券発行前の株式譲渡に関して一言(当初の記事を大幅に加筆・修正しました)。

 

■問題の所在

会社法は、128条2項で、株券発行前の株式譲渡は「株券発行会社に対し、その効力を生じない」とする。

これは、旧商法204条2項と同内容の規定であり、文言もほぼ同じである。

 

128条 【株券発行会社の株式の譲渡】

1項
株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、 その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。

2項
株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。

 

問題は、2項の「株券発行会社に対し、その効力を生じない」の意義である。

 

 

即ち、「その効力を生じない」とは文字どおり「効力が発生しない」という意味なのか、「対抗できない」という意味なのか。

 

前者であれば会社から当該譲渡の効力を認めることはできないし、 後者であれば会社から当該譲渡の効力を認めることは可能になる。

 

 

■最高裁昭和33年判決

この問題について、最判昭和33年10月24日民集12巻14号3194頁は、次のように述べた上で、「その効力を生じない」とは、文字どおり「効力が発生しない」という意味であり、 会社から当該譲渡を認めることはできない、とした。

 

即ち、「法は、所論のように株式の自由譲渡性を保障 (商法204条1項) しながらも、その譲渡方法は、株主たる地位を表彰する要式の株券による(同205条1項、225条)べきものとし、株券の発行前にした株式の譲渡は、『会社ニ対シ其ノ効力ヲ生ゼズ』 (同204条2項)としているのであって、その法意は、いわゆる『対抗スルコトヲ得ズ』 とある場合と異なり、会社に対する関係においては何等の効力をも生じないとするにあるのであり、従って、 会社からもその効力を認め得ないものと解しなければならない

 

「けだし、このような制限を法定したのは、 所論の技術的理由によることもさることながら、 株券発行前の譲渡方式に一定されたものがないことによる法律関係の不安定を除去しようとする考慮によるものであって、すなわち、 会社株主間の権利関係の明確かつ画一的処理による法的安定性を一層重視したるによるものと解すべきだからである」

 

■最高裁昭和47年判決

ところが、上記33年判決は、最大判昭和47年11月8日民集26巻9号1489頁で変更されている。

 

即ち、47年判決では、

 

 

会社が株券の発行を不当に遅滞している場合にも33年判決の論理が妥当するか否か?

 

 

が問題になり、最高裁は、

 

 

株券発行が不当に遅滞している場合には33年判決の論理は妥当しない

 

 

旨を示したのである。

 

 

■47年判決の射程

問題は、その47年判決の射程である。

47年判決は次のように述べて33年判決を変更している。

「商法204条2項の法意を考えてみると、それは、 株式会社が株券を遅滞なく発行することを前提とし、 その発行が円滑かつ正確に行なわれるようにするために、 会社に対する関係において株券発行前における株式譲渡の効力を否定する趣旨と解すべきであって、右の前提を欠く場合についてまで、 一律に株券発行前の株式譲渡の効力を否定することは、かえって、右立法の趣旨にもとるものといわなければならない」

 

「もっとも、安易に右規定の適用を否定することは、 株主の地位に関する法律関係を不明確かつ不安定ならしめるおそれがあるから、これを慎しむべきであるが、 少なくとも、会社が右規定の趣旨に反して株券の発行を不当に遅滞し、 信義則に照らしても株式譲渡の効力を否定するを相当としない状況に立ちいたった場合においては、株主は、 意思表示のみによつて有効に株式を譲渡でき、会社は、もはや、株券発行前であることを理由としてその効力を否定することができず、 譲受人を株主として遇しなければならないものと解するのが相当である。この点に関し、最高裁昭和30年(オ)第426号同33年10月24日第2小法廷判決・ 民集12巻14号3194頁において当裁判所が示した見解は、右の限度において、 変更されるべきものである。」

 

後半部分を読むと、33年判決の変更部分は、 あくまで会社が株券の発行を不当に遅滞している場合に限られるように思える。

もしそうだとすると、このような株券発行の遅滞が認められない通常の事案においては、依然として33年判決の射程が及ぶことになる。

 

従って、これを敷衍すると、通常の事案においては、128条2項「その効力を生じない」とは、文字どおり「効力が発生しない」 という意味であり、会社から当該譲渡を認めることはできないはずである。

 

現に、47年判決を担当された小堀調査官も『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和47年度』(法曹会、昭和49年)572頁でその旨を述べられているし、 葉玉匡美編著『新・会社法100問』(ダイヤモンド社、2005年) 133頁もこのような考え方を前提にした記述になっている。

 

しかし、このような考え方は、47年判決の前半部分、即ち、

 

「商法204条2項の法意……は、 株式会社が株券を遅滞なく発行することを前提とし、 その発行が円滑かつ正確に行なわれるようにするために、 会社に対する関係において株券発行前における株式譲渡の効力を否定する趣旨と解すべき」

 

という判示部分と整合性を有するのだろうか?

 

つづく

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