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2006年9月11日 (月)

【民法】 追奪担保責任の法的性質について

今日は、追奪担保責任(561条) の法的性質について一言。

 

■条文

561条 【他人の権利の売買における売主の担保責任】
前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、 買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、 損害賠償の請求をすることができない。

 

■はじめに

民法は、560条以下でいわゆる担保責任について規定しているが、この担保責任の法的性質論として有名なのは、以前、 このブログでも説明した瑕疵担保責任の法的性質である。

 

そして、瑕疵担保責任の法的性質論において華々しい議論が展開されているせいか、 他の担保責任論の法的性質には余り注目されていないようである(担保責任の法的性質論は瑕疵担保責任に固有の議論だと思っている学生もいるようである。 担保責任で法的性質が問題とされる理由については、潮見佳男『契約各論 I 』〔信山社、2002年〕96頁以下を参照)。

 

確かに、瑕疵担保責任に比べれば追奪担保責任の法的性質論はマイナーであるし、 これが正面から問われる問題もあまり多くないと思われる。

しかし、法的性質論は確固として存在しており、主として、法定責任説債務不履行責任説が対立している。

 

■法定責任説

法定責任説の論者は次のように主張する(我妻榮『債権各論 中巻一 (民法講義V2)』〔岩波書店、昭和32年〕270頁以下より抜粋。尚、引用に際しては引用者が旧字を改めている)。

 

まず、「法定」 の意味について、我妻先生は次のように述べられる(尚、我妻先生は特定物ドグマではなく原始的不能ドグマを採用されている)。

 

「担保責任を生ずる場合のうちには、 原始的に一部不能なものを含んでいる。例えば、一定区画の土地を100坪あるものとして売買したのに90坪しかなかったときはそうである (565条参照)。かような場合には、民法の原則からいえば、その不能な部分については、 契約は成立しないはずである。担保責任の規定は、 右の民法の原則に対する特則を含むことになる」(273頁。太字は引用者。※ 注1

 

つまり、担保責任は「有償契約たる売買においては、 売主にさような責任を認めることが公平でもあり、かつ取引の信用を保護することになって適当だとして、 法律がとくに認めたもの」である(270頁。太字は引用者)。

 

※注1
但し、我妻先生はこれに続いて次のように述べられる。
「然し、だからといって、担保責任をもって原始的不能に限るとなし、他人の物の売買においても、 売主が権利を移転することができない場合には、原始的不能であったのだと強いて考える必要はない」(273頁)。

 

そして、担保責任は特定物売買に限られるとされる (但し、上記のとおり、 我妻先生は特定物ドグマを採用しているわけではなく、原始的不能ドグマを採用されている点に注意)。

 

「売主の担保責任は、特定物の売買に限る制度だといわねばならない。 けだし……特定物の売買では、売主は契約で定められたその特定の物を給付する債務を負うたけだから、それを給付すれば、 債務の履行は完了する。……然し、それでは、当事者間の公平をはかり取引の信用を維持するゆえんでないとして、 民法が特に担保責任を認めたものと解さねばならない」(272頁)。

 

 

■債務不履行責任説

これに対し、債務不履行責任説は次のように主張する。

即ち、追奪担保責任は、 「560条により認められる権利移転義務の不履行にもとづく責任であり、債務不履行責任である」(山本敬三 『民法講義VI-1』〔有斐閣、2005年〕240頁)。

 

つまり、現行法は、他人物売買について560条という明文で所有権移転義務を課している以上、 所有権移転義務は契約の内容になっているはずである。

 

とすれば、目的物の所有権を買主に移転できない場合は端的に債務不履行責任になる。

 

債務不履行責任説の論者は上記のように主張するのである。

 

 

■両説の差異

では、法定責任説と債務不履行責任説で具体的結論に差が出るのか? もし、両説で差が出ないのであれば、 両説の存在意義は理論面に限られることになり、現実的有用性が低下すると考えられるために問題となる。

 

結論から言えば、差は出る。

 

即ち、学説で細かな対立はあるものの、大雑把に言えば法定責任説では信頼利益賠償が原則となるのに対し、債務不履行責任説では履行利益賠償も原則として認められ得ることになるのである(但し、繰り返しになるが、論者によって差異があるので注意)。

 

 

■瑕疵担保責任における議論との整合性

では、追奪担保責任における法的性質と瑕疵担保責任の法的性質は一貫しなければ理論的整合性を欠くことになるのか?

 

つまり、瑕疵担保責任で債務不履行責任説を採用するのであれば、 追奪担保責任でも債務不履行責任説を採用しなければ矛盾することになるのか?

 

結論から言えば、法的性質は一貫しなくても良いものと考えられる (当然だが、別に一貫しても全く構わない)。

 

何故ならば、追奪担保責任については560条に所有権移転義務が明示されているからである。

 

つまり、瑕疵担保責任の法定責任説は、瑕疵ある物を給付しても原則として債務不履行にならないはずであるにも拘わらず、 法が特別に定めた責任が瑕疵担保責任である、と主張する見解である。

 

しかし、追奪担保責任の場合は、560条で所有権移転義務が課せられている以上、他人物を給付した場合は債務不履行になると民法が定めている、 と考えることができるのである。

 

換言すれば、追奪担保責任の問題状況と、瑕疵担保責任の問題状況は異なるものと考えることができるので、 両者の法的性質を一貫させる必要性は必ずしも無いと考えられるのである。

 

 

■関連する拙稿

【民法】 二重譲渡と561条
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_d14e.html

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