【民法】 瑕疵担保責任の基礎知識・その2 ――法的性質論
今回も、前回に引き続き、 瑕疵担保責任の基礎知識について。
そして、今回は、特に法的性質について一言。
尚、法的性質については、山本敬三『民法講義4-1 契約』(有斐閣、2005年) 263頁以下に詳細な記述がある。
■法定責任説とは
法定責任説とは、瑕疵担保責任を債務不履行責任とは異なる法定責任である、とする見解である。
この見解は大要、次のように主張する(論者によって差異はある)。
即ち、特定物売買の場合、特定の物を給付することだけが債務の内容になるので、 その給付によって債務の履行が完了してしまう。
つまり、目的物に瑕疵があっても、債務不履行にならないことになる。
しかし、これでは、売主と買主の間の対価的均衡を欠くことになってしまうので、それを是正し、 買主の信頼を保護する為に法によって特別に認められた責任が瑕疵担保責任である。
■契約責任説とは
契約責任説とは、瑕疵担保責任を契約不履行に基づく責任である、とする見解である。
この見解は、大要、次のように主張する(論者によって差異はある)。
即ち、特定物売買の場合でも、当事者が物についての一定の観念を持つことは可能であり、 この観念も契約内容になる。
従って、「瑕疵の無い物を給付する」ことが契約された場合に、瑕疵ある物を給付すれば、 それは端的に債務不履行となる。
よって、瑕疵担保責任は債務不履行責任の特則である、とする。
■法定責任説の論拠
法定責任説は、瑕疵担保責任を特定物ドグマ(柚木説など)、または原始的不能ドグマ(我妻説など)で基礎付ける。
■特定物ドグマとは
特定物ドグマとは、特定物売買においては、瑕疵のある特定物の給付も瑕疵の無い完全な履行である、 とするドグマ(教義)を言う。
換言すれば、特定物の性質は効果意思の内容にならない、 という考え方である。
そして、何故、特定物ドグマという考え方が主張されたのかと言うと、契約内容は、それによってどのような法律効果 (給付義務)が生ずるのかが特定されるものであれば足りる、 と考えているからである(※注1)。
従って、契約の目的物も、給付義務を確定できる程度に特定されていれば足りるのである。
つまり、「この世に存在する物」のうち、どれを給付すれば良いのかが特定されれば足りる。
とすれば、その物に対する性質を当事者間で合意したところで、それは楽しい空想に過ぎず、契約内容にはならないことになる。
※注1
これは2つの考え方に基づく。
即ち、(1) 効果意思は目的物の物理的性質によって限定される、(2) 契約は履行請求の手段でなければならない、 という考え方である。
(1)と(2)の考え方は、 何を給付すべきかが判明すればあとは強制執行すれば良い、という観点で相互に関係している。
ちなみに、発生する法律効果が特定されれば良いという考え方は、 意思表示は効果意思、表示意思、表示行為の3つで構成され、動機は意思表示の要素ではない、という主張と構造的に同じである。
■原始的不能ドグマとは
原始的不能ドグマとは、原始的に不能な給付を目的とする契約は無効である、とするドグマを言う。
但し、成立上の牽連性を維持したままでは契約自体が無効になってしまうので、原始的不能ドグマを採用する場合は、 牽連性は否定する必要がある。
■注意事項
法定責任説内部では特定物ドグマの考え方の方が主流である。
また、両者は論理的に両立し得ない。
何故ならば、特定物ドグマは性質については合意不成立を前提するのに対し(そもそも合意可能である事項についてしか合意していない。性質については合意不可能である以上、 合意は成立していないとする)、原始的不能ドグマは性質についても合意成立を前提としているからである。
■契約責任説の論拠
契約責任説は、瑕疵担保責任を私的自治の原則・自己決定原理で基礎付ける。
即ち、実際には、特定物の性質についても当事者が共通の観念を持つことが多い以上、その観念を合意の内容に含めることが私的自治・ 自己決定の尊重に資する、と考えるのである 。
また、給付義務は「何をすべきか」という規範・当為の問題であって(端的に言えば観念の世界の問題であって)、「この世に存在する物」を対象とせねばならないという訳ではない、 と考える。
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コメント
大変参考になりました。
ありがとうございます。
投稿: y | 2008年1月27日 (日) 16:24
大変参考になりました。
ありがとうございます。
投稿: y | 2008年1月27日 (日) 16:24
コメント、ありがとうございます。
拙稿がお役に立てたのであれば幸いです。
お返事が遅れて申し訳ありませんでした。
投稿: shoya | 2008年3月 1日 (土) 11:25