【刑法】 トラックバックと威力業務妨害罪
今日は、威力業務妨害罪とトラックバックについて一言。
某法律系ブログを拝読していたところ、次のような一文がブログの冒頭に示されていた。
本ブログに法律とは関係ないトラックバック(特に風俗関係のトラックバック)を張ることは、威力業務妨害罪(刑法234条)に該当します
本ブログのような「過疎」ブログですら、時折、業者によるトラックバックが為される。人気のあるブログともなれば、 業者のトラックバック数も多く、管理が大変であろう。
従って、このような警告をする意図は充分理解できる。拙稿も、上記警告にケチをつけるつもりは毛頭無い。
ただ。
あるブログに、そのブログと無関係の商業的トラックバックを張ると、本当に威力業務妨害罪が成立するのだろうかか? 少なくとも構成要件には該当するのだろうか?
■条文
刑法233条 【信用毀損及び業務妨害】
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、
人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法234条 【威力業務妨害】
威力を用いて人の業務を妨害した者も、
前条の例による。
■判例の整理
威力業務妨害罪については幾つかの論点があるが、判例の立場を簡単にまとめると、大要、以下のようになるものと考えられる。
1. 本罪は抽象的危険犯である(但し、 学説では侵害犯説が有力)。
2. 本罪の「業務」とは、社会的に平穏に営まれている事務を指す。
3. 本罪の「業務」に公務が含まれるか否かについては争いがあり、判例は公務を「業務」 に含めていく傾向にある(「常に含めている」という断定はし辛い)。
4. 「威力」とは、人の意思を制圧するに足る勢力を言う。
5. ただ、実際には妨害手段が公然に行われる場合が威力業務妨害罪、 不可視的に行われる場合が偽計業務妨害罪、という処理が為される傾向にある(最決昭和59年3月23日刑集38巻5号2030頁など)
6. 通説は、本罪の成立には業務の外面的な混乱が必要とするが、 いわゆるマジックホン事件で最高裁は本罪の成立を肯定しており(最決昭和59年4月27日刑集38巻6号2584頁)、通説と全く同様に考えているとは言い難い。
■考察
結論から言えば、成立する可能性は充分ありそうである。
勿論、犯人の特定、故意の立証、そもそもこの程度の違法性で検察官が起訴してくれるか、など、現実的な成立にはかなりの困難を伴うが、 理論的には――少なくとも客観的構成要件該当性は――充分ありうると考えられる。
とすれば、現実的には本罪の成立は困難であるにせよ、 警告の基礎となる程度の成立可能性は十分にあるのだろう。
だからこそ、私が拝読したブログの著者の方も「成立します」ではなく、「該当します」と述べるに留めているのだろう。
……目新しい発見もなく、下らない記事になってしまった。駄文失礼。やれやれ。
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