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2006年9月12日 (火)

【民法】 94条2項類推適用について若干の補足・その3

今日は、このブログでも何回か取り上げているが、民法94条2項類推適用について若干の補足

 

そして、今日の話題は2つある。

 

第1は、債権にも民法94条2項を類推適用することはできるか、という問題である。

第2は、民法94条2項類推適用によって認められる効果は承継取得か原始取得か、 という問題である。

 

どちらも、民法をお得意とされている方に対しては釈迦の耳に説法であろうが、お付き合い頂ければ幸いである。

 

 

 

■これまでの拙稿

【民法】 拙稿の整理
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/post_bf1c.html

 

【民法】 94条2項類推適用について若干の補足・ その1
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/post_bafd.html

 

【民法】 94条2項類推適用について若干の補足・ その2
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/post_a303.html

 

 

 

■債権にも民法94条2項を類推適用することはできるか

結論から言えば、債権にも94条2項を類推適用することは理論的にはできる

 

理由は次のとおりである。

 

そもそも、94条2項は意思表示に関する規定であって、 意思表示に関するものであれば物権法においても債権法においてもその適用は可能である(親族法は除く)。

 

とすれば、その類推適用においても、適用範囲が物権に限られるということはないはずである。債権にも適用可能である。

 

 

また、別のアプローチから説明すると、94条2項類推適用は権利外観法理の一種である。

 

そして、権利外観法理とは、

 

「権利…… は不存在であるがその外観があり、それを信じて取引関係に立った者はその信頼において保護され、信頼どおりの効果が生ずる」 という法理

 

を言う(奥田昌道・安永正昭編『法学講義民法1 総則』〔悠々社、2005年〕 176頁以下)。

 

従って、定義からも分かるように、権利外観法理はその保護対象である信頼を制限していない。

 

よって、「取引関係に立った者」の信頼が債権に向けられている場合には、債権的な保護が与えられることになる。

 

以上のとおり、債権にも民法94条2項を類推適用することは「理論的には」可能である。

 

 

また、学説でも

 

 「静的安全が重視される不動産についてさえ、 94条2項の類推適用によって取引の安全が図られるとするならば、債権についても同様に扱うことも考えられる」

 

と指摘されている(能見善久「民法94条2項の類推適用」 星野英一編 『判例に学ぶ民法』〔有斐閣、1996年〕37頁。 能見先生のこの論文は94条2項類推適用論を学ぶ際には必読である)。       

 

事実、大阪地判昭和63年12月12日訟月35巻6号953頁は債権について94条2項を類推適用している。

 

但し、実際に債権について民法94条2項を類推適用するには、クリアしなければならない問題が2つある。

 

即ち、 「第1に、消費貸借契約のような要物契約について、 94条2項の類推適用によって債権が成立するのと同じ状態が作られてよいのかが問題である。しかし、 判例は本来の虚偽表示に関して要物性を問題にしないとしており、類推適用の場合も同様に解してよい」 (能見・ 前掲書37頁)。

 

「第2に、 より重要なのは不動産の登記と異なり、何をもって虚偽の外形と見るかという問題である。 債権の場合には登記ほど明確な権利表象の外形は作られないであろうから、そのような外形(例えば債権証書) を単純に信じても第三者は保護されるべきではない」(能見・ 前掲書37頁)。

 

 

 

■94条2項類推適用によって認められる効果は承継取得か、 原始取得か

まずは、議論の出発点として、定義から述べる(但し、 以下の引用文中の「物権」は適宜置き換えて頂きたい)。

 

原始取得とは、 「前主の権利とは無関係に、まったく新しい物権を取得すること」(近江幸治『民法講義II 物権法〔第2版〕』〔成文堂、2003年〕 38頁)を言う。

 

換言すれば、「世の中にあらたに物権が発生すること」および、「前主の権利を前提とせず、これとは無関係に物権を取得する場合」 のことである(遠藤浩ほか編『民法(2) 物権〔第4版増補版〕』 〔有斐閣双書、有斐閣、2003年〕29頁)。

 

 

承継取得とは、 「既存の物権に依拠してなされる物権の取得」(近江・ 前掲書38頁)を言う。

 

換言すれば、「前主の権利を前提として、その権利の瑕疵や負担をもあわせて承継する」ということである(遠藤浩ほか・前掲書30頁

 

 

そして、結論から言えば、94条2項類推適用によって認められる効果は、原始取得の場合もあれば、 承継取得の場合もある

 

 

承継取得については説明を要しないだろう。

 

原始取得としては、例えば次のような場合が考えられる。




A ―― X

 

Yが、税金対策のために、勝手にAから金を借りた旨の借用証書などを作成したとする。つまり、 AがYの債権者であるかのような外観をYが勝手に作った場合である。

 

そして、Xが、何らかの事情によりその証書などの存在を知り、AがYに対して債権を有しているものと善意無過失で信じ、 その債権を差し押さえたとする。

 

この場合、もし、Xが94条2項類推適用の要件を充足したとすると、Xは、AのYに対する債権を取得することになる。言うまでもなく、 このAのYに対する債権というものは、元々は存在していなかった債権である。

 

従って、この場合、Xは、94条2項類推適用によってAのYに対する債権を原始取得したことになる。

 

 

 

■続編

 【民法】 94条2項類推適用について若干の補足・その4
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/post_43c6.html

 

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