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2006年10月16日 (月)

【民法】 抵当権の不可分性と競売による消滅について

今日は、質問を受けたので、担保物権(抵当権)の不可分性と競売による消滅について一言。

基本的な事柄であるが、考え出すとよく分からない点もある。

 

 

■問題

GはSに対して1億円の貸付債権を有しており、その担保としてS所有の甲土地に第1順位の抵当権を設定した。

 

そして、Tも、Sに対して5000万円の貸付債権を有しており、その担保として甲土地に第2順位の抵当権を設定した。

 

G

S ← T

 

平成18年11月1日、Gは抵当権を実行した。その結果、甲土地は1億2000万円で競落された。

 

このとき、Tの抵当権、被担保債権はどうなるか?

 

Tが2000万円の配当を受けたことによって、Tの抵当権は消滅し、残りの貸付債権3000万円は無担保債権になる、 と考えるのはおかしくないか?

 

抵当権には不可分性がある以上、Tの抵当権は5000万円全てが弁済されない限り、消滅しないのではないか?

 

非常に基本的な問題で恐縮だが(「何を言っているのか?」 と訝しがられた方もおられるかもしれない)、初めて民法を学ばれている方は、ゆっくりと考えてみて頂きたい。

 

 

 

■定義・ 条文

不可分性とは、「担保権者は、被担保債権全額の弁済を受けるまで、 目的物の全部についてその権利を行うことができる」という性質を言う(道垣内弘人 『担保物権法〔第2版〕』〔有斐閣、2005年〕8頁)。

 

現行法では、296条で留置権について規定され、それが先取特権(305条)、質権(350条)、抵当権(372条)で準用されている。

折角なので、条文も引用しておく(法律解釈では「まず条文」 である)。

 

296条 【留置権の不可分性】
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、 留置物の全部についてその権利を行使することができる。

 

 

 

■解説

結論から言えば、Tの抵当権は消滅し、かつ、TのSに対する残りの3000万円分の貸付債権は無担保債権になる。

これで正しい。

以下、説明する。

 

 

◆抵当権の消滅について

まず、競売(抵当権の実行)は、抵当権者であれば―― 要件を充足する限りにおいて―― いつでも誰でも可能である。

 

そして、競売が為されると、抵当権はその順位に拘わらず、全て消滅する。

第10順位の抵当権者が行った場合でも、全ての抵当権が消滅するのである。

 

これを消除主義と言う。

 

正確に定義すると、消除主義とは「不動産上の権利は原則として全て売却によって消滅し、 買受人は負担のない不動産を取得できるものとする」不動産執行上の制度を言う(上原敏夫=長谷部由起子=山本和彦 『民事執行・保全法〔第2版〕』〔有斐閣、2006年〕121頁)。

 

 

ところで、この「競売が為されると、抵当権はその順位に拘わらず、 全て消滅する」という命題の根拠条文は何条だろうか?

 

 

この質問をすると返答に窮する学生が意外と多いのだが、答えは、民事執行法188条、 および同法59条1項である。

 

ここまでは基本的な事柄と言って差し支えないと思う。

 

 

 

◆不可分性について

では、この民事執行法188条・59条1項の規定は抵当権の不可分性と矛盾しないのか?

 

即ち、両条によると、債権者Tは、被担保債権の満足を完全には受けていないのに抵当権が消滅することになる。

 

これは、「担保権者は、被担保債権全額の弁済を受けるまで、 目的物の全部についてその権利を行うことができる」という不可分性に反するのではないか?

 

結論から言うと、反する可能性がある。

 

つまり、不可分性を重視するのであれば、消除主義は採り辛いと考えられるのである(引受主義を採る方が素直である。……と考えているのだが、ひょっとして大きな誤解をしているのかもしれない。 どなたかご教授頂ければ幸いである)。

 

しかし、実務では、抵当権は旧法時代から消除主義で解釈・運用されており、消除主義を前提として議論を進める必要がある。

 

そして、寡聞にして説得的な論証を私は耳にしたことが無い。

 

ちなみに、各抵当権者の実行が擬制されるから不可分性には反しない、という説明が為されるようだが、 その擬制の根拠が何処にあるのかはっきりせず、説得力に欠ける気がする。

 

個人的には、この場面では不可分性の要請が後退する、と考えているが、まだ煮詰まっていない。

 

 

以前にも述べたように、民法の理論は、民事執行法と衝突することがたまにある。

そして、素朴な質問も考え出すと、よく分からなくなるものである。やれやれ。

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