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2006年10月20日 (金)

【民法】 果実、必要費、有益費について・その1

質問を受けたので、果実、必要費、有益費について幾つか説明をしたいと思う。

特に、今日は、必要費と有益費の区別、および有益性の判断について一言

 

 

■定義

果実とは、 「ある物から生じる経済的利益」を言う。

 

そして、「果実を生じる元になる物」のことを元物と言う(尚、私は「がんぶつ」と読むと習ったが、書籍によっては「げんぶつ」としてある。MS-IMEでは 「げんぶつ」でしか変換できない)。

 

特に、「元物の経済的用法に従って収取される産出物」を天然果実と言い、 「元物を他人に使用させた対価として収受される金銭その他の物」を法定果実と言う (以上につき、佐久間毅『民法の基礎2 物権』〔有斐閣、2006年〕16頁)。

 

 

要費とは、「修繕費や公租公課など、物の保存・ 管理に必要な費用」を言う(奥田昌道=鎌田薫編 『法学講義民法2 物権』〔悠々社、2005年〕103頁〔辻伸行〕)。

 

有益費とは、 「物の保存のために必要な費用ではないが、物の利用・改良のために支出し物の価値を増加せしめる費用」を言う (川島武宜編『注釈民法(7) 物権(2)』〔有斐閣、 昭和43年〕173頁〔田中整爾〕

 

 

■必要費と有益費の区別

定義からも分かるように、一般的に、必要費と有益費の区別は、 原状維持に留まっているか、それとも、価値の増加に至っているか、で判断される。

 

比喩的に言えば、価値的にゼロの状態に回復させた場合(例えば修理費)や、ゼロの状態を維持している場合(例えば租税)は必要費であり、価値的にゼロからプラスに至らせた場合が有益費である。

 

これは特に問題ないだろう。

 

 

■有益性の判断

民法は、有益費について幾つか規定を置いている。

例えば、196条2項、299条、391条、583条2項などである。

 

このうち、今回は、196条2項と608条2項を題材にする。

以下の設例を考えて頂きたい。

 

 

【設例1】

Yは、Xに対して家庭用自動車・甲を月額1万円で賃貸していたところ、賃借人Xは、 甲のエンジンを時価2000万円の高性能エンジンに取り替えた。

Xは、Yに対して有益費を償還するよう請求することができるか?

 

【設例2】

自動車技術者であるSは、プロレーサーであるGに対して、スーパーカー・乙(表現が古いですね)を月額100万円で賃貸していたところ、賃借人Gは、 乙のエンジンを時価2000万円の高性能エンジンに取り替えた。

Gは、Sに対して有益費を償還するよう請求することができるか?

 

【設例3】

Bは、自宅ガレージに自己所有の通学用自転車・丙を駐車していたところ、Zに盗まれ、A宅前に乗り捨てられた。

その自転車は、たまたまAが以前盗まれた通学用自転車・丁と同種のものであったため、Aは自分の自転車が戻ってきたものと考え、 タイヤを時価20万円の高性能タイヤに交換した。

Aは、Bに対して有益費を償還するよう請求することができるか?

 

 

結論から言うと、以下のようになるものと考えられる。

 

【設例1】 請求は認められない。

【設例2】 請求は認められる。

【設例3】 請求は認められない。

 

 

■【設例1】と 【設例2】について

まず、【設例1】と【設例2】について説明する。

設例1と設例2では、いずれも196条2項の特則である608条2項本文の請求が認められるか否かが問題となる。

 

そして、608条2項が適用される場合、即ち、 有益費請求者と被請求者との間に賃貸借契約が存在する場合には、「有益」であるか否かは、 契約内容に即して判断される

 

これは、以下の理由に基づく。

 

即ち、「賃貸借の場合には、 賃借人は目的物を契約内容に従って使用収益する権利を有するから、目的物がこの権の実現のために通常備えているべき状態を欠くに至ったならば、 賃借人は賃貸人の負担でその状態を確保できてしかるべきである。この確保のための措置が……目的物の変更 (改良)に当たる場合には有益行為にあたると解される」(前掲・佐久間183頁)。

 

前述したように、有益費とは、価値的にゼロからプラスに至らせた場合の支出を意味する。

 

そして、この場合、何が「ゼロ」=「元々の状態」(原状)であるかは、契約内容によって決定される。

同様に、何が「プラス」であるかも契約内容によって決定される。

何故ならば、私的自治の原則からすれば、「利得の押し付け」を防止する必要性があるからである。

 

つまり、そもそも、私的自治の原則からすれば、 物をどのような状態にしておくかは所有者(ここでは賃貸人) が決めるべきことである。

 

換言すれば、 所有者が全く望まない改良によって物の客観的価値が増加したとしても、その増加は所有者にとっては「押し付けられた利得」 に過ぎない。

 

但し、その所有者が自ら一定範囲の使用を許した場合、その範囲から逸脱しない程度の改良であれば、それは「押し付けられた利得」 とまでは言えない(むしろ、 許可範囲を多少越えたに過ぎない改良を絶対的に禁止するとデメリットが大きすぎる)。

 

従って、「有益」であるか否かは、「所有者自らが許した一定範囲の使用」 、即ち、契約内容によって決定される。

 

 

【設例1】では、賃貸借目的物が家庭用自動車であることを前提にして契約内容が決定されている。従って、 2000万円の高性能エンジンに取り替えることは、「押し付けられた利得」であり、有益費とは認められない。

 

他方、【設例2】では、賃貸借目的物がスーパーカーであることを前提にして契約内容が決定されているので、 高性能エンジンに取り替えることは、「所有者自らが許した一定範囲の使用」から逸脱しない程度の改良と考えられる。

よって、有益費として認められる。

 

 

■【設例3】 について

ところが、【設例3】では、AB間に契約関係が無い。

この場合は、どのように考えるのか?

 

結論から言えば、その改良行為が 「物の通常の利用のために物が備えているべき状態を確保するのに必要な措置であるかどうか」を基準に考えることになる (前掲・ 佐久間287頁)。

 

つまり、ここでは【設例1】や【設例2】のように契約内容を基準に「有益」性を決定するのではなく、「通常の利用」 という要素を基準に「有益」性を決定するのである。

 

これも、【設例1】・【設例2】で述べた理由に基づく。

即ち、私的自治の原則からすれば「押し付けられた利得」は防止されるべき、という理由である。

 

そして、【設例3】では、20万円もの高性能タイヤに交換しなくても、通学用自転車としては通常の利用が可能であろう。

むしろ、20万円ものタイヤに交換することは、通常の利用から逸脱した行為であると考えられる。

よって、20万円の支出は有益費とは認められない。

 

 

 

つづく

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コメント

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